野生生物保護学会青年部会研究集会#01
野生生物をめぐる軋轢をどう把握するべきか?-獣害の新たな認識枠組みをめざして-
日時
2007年4月21日(土)13:00~17:30
会場
エコギャラリー新宿(新宿区立環境学習情報センター:東京都新宿区西新宿2-11-4 新宿中央公園内)2F 研修室
趣旨
野生生物が人間にとって「好ましくないもの」となることは少なくない。それにどう対応するかは野生生物と人間の望ましい関係を築く上で、大きなテーマである。そして、比較的大型の動物による軋轢(人身被害や農作物被害など)は「獣害」として議論されてきた。これまで、獣害は被害額といった指標に代表される定量的な被害量として理解され、対応がされてきた。一方で、野生生物との軋轢を社会的な問題としてどう受け止めていくのか、という社会的に構築された被害認識を取り上げる必要性も指摘されはじめている。しかし、実体としての被害量が被害認識を形成する要因でもあるため、被害認識のみをとりあげることは現場から乖離しかねない。つまり、実体的な被害量にしろ、観念的な被害認識にしろ、どちらかを追及するような既存の認識枠組みでは、双方ともに獣害という軋轢を適切に把握できないというジレンマに陥ってしまう。
おそらく、こうした状況から浮かび上がるのは、被害量と被害認識の双方を捉えていくような獣害という軋轢の新たな認識枠組みの必要性ではないだろうか。
そうした軋轢の認識枠組みを、私たちはまだ十分に持ち合わせていない。軋轢を及ぼす生物による細分化された技術的な議論はあっても、被害量と被害認識の間で揺れ動き、時に矛盾するような軋轢の構造が、十分に議論されてきたとは言いがたいからだ。この研究集会では、こうした問題意識を踏まえて、獣害が「誰にとって」「どんな」問題であるのかを問いなおすところから、軋轢の新たな認識枠組みを議論していきたい。そこを手がかりにして、問題全体の枠組み、すなわち「見取り図」をつくっていく作業に取り掛かれるのではないだろうか。また、こうした「見取り図」を問う作業は、いわゆる獣害だけではなく、必ずしも好ましいものばかりではない「荒ぶる自然」とどのようにつきあっていくべきなのか、自然における災い、リスク全般にどう対峙するべきなのかについても、普遍的な論点を与えるのではないだろうか。
プログラム
13:00 部会長挨拶
13:10 趣旨説明(富田)
●話題提供(13:20~16:00)
13:20 鈴木克哉:多義的農業における獣害対策のジレンマ-下北半島の猿害問題における農家の被害認識構造の分析から-
14:00 立澤史郎:獣害問題を生態学の問題としてどのように「解題」できるか
15:20 丸山康司:地域社会における獣害問題の位置づけと「解決」への方向性
(休憩:15分)
●総合討論(16:15~17:30)
17:30 閉会
参加人数
50人
概要
当日は、部会長挨拶や企画責任者による趣旨説明のあと、鈴木克哉さん(京都大学霊長類研究所・青年部会幹事)から「多義的農業における獣害対策のジレンマ」、立澤史郎さん(北海道大学)から「獣害問題を生態学の問題としてどのように「解題」できるか」、丸山康司さん(産業技術総合研究所)から「地域社会における獣害問題の位置づけと「解決」への方向性」というテーマでそれぞれ話題提供があり、問題解決への目標や、対策の方向性などについて総合討論を行った。なお、予定では横山真弓さん(兵庫県立大学)にも科学的な管理計画や現場での合意形成などについて話題提供をお願いしていたが、残念ながら急な体調不良のため不参加となった。会場には50名以上の参加者があつまり、最後にはフロアも交えて新たな議論の展開や解決への手法についての討論を行った。正確な内数明らかではないものの、非学会員の参加(12人以上)も含め、さまざまな分野や立場の参加者があり、若手の参加も比較的多かった。
※なお、詳細はワイルドライフフォーラム誌12巻2号に掲載しております。
スタッフ
富田涼都(企画責任者)・浅利裕伸・西貝怜