公開シンポジウム

大会開催案内 最終版(pdf書類44ページ)(2013/11/18)

第19回「野生生物と社会」学会 公開シンポジウム(1)
兵庫県の獣害対策最前線

日時:

2013 年11 月28 日(木)13:00~16:30

場所:

篠山市四季の森生涯学習センター(篠山市網掛429)
多目的ホール・入場無料

 近年、全国各地の農山村で獣害問題が深刻化し大きな社会問題となっています。兵庫県においても、シカやイノシシ、ニホンザルなどによる農林業被害や森林生態系への被害、ツキノワグマによる人身事故の不安、外来種問題など、多種多様な野生動物と人とのあつれきが問題となっていますが、最近では県内各地でさまざまな獣害対策の取り組みが先進的に実施されています。本大会の開催場所である篠山市も行政と地域住民が非常に熱心に様々な取り組みを実践されている地域の一つです。

 本シンポジウムでは、兵庫県の野生動物管理推進体制や但馬地域の行政施策、篠山市における地域が主体となった取り組み事例について、話題提供をいたします。また、篠山市で問題の大きいサル対策について、他県事例として、三重県の取り組みをご紹介いただきます。

プログラム

13:00~13:10 開会の挨拶

13:10~13:40 『兵庫県の野生動物管理推進における森林動物研究センターの役割~計画策定・人材育成・現場対応~』
中谷康彦(兵庫県森林動物研究センター森林動物専門員)

13:40~14:10 『兵庫県但馬地域における被害対策の担い手育成と体制作り』
上田剛平(兵庫県但馬県民局朝来農林振興事務所)

14:10~14:40 篠山市リクエスト報告『三重県のサル被害対策の実践例』
山端直人(三重県農業研究所)

14:40~14:50 休憩

14:50~15:50 篠山市における地域主体の取り組み事例発表
 (1)アライグマ被害でつながった地域のオッチャン奮闘記
  西牧正美(NPO法人大山捕獲隊代表)
 (2)「つらい」獣害対策に「楽しみ」を!-集落ぐるみの対策と意欲継続の工夫
  森本富夫(篠山市東木之部集落)

15:50~16:20 質疑応答

16:20~16:25 閉会の挨拶

講演(1)『兵庫県の野生動物管理推進における森林動物研究センターの役割~計画策定・人材育成・現場対応~』

中谷康彦(兵庫県森林動物研究センター森林動物専門員)

 兵庫県森林動物研究センターは、科学的、計画的な野生動物の保全と管理(ワイルドライフ・マネジメン ト)を推進するために必要な科学的知見と情報を提供する拠点施設として、平成19 年4月に兵庫県丹波市 青垣町に開設されました。当センターは、兵庫県農政環境部の出先機関と、(公立大学法人)兵庫県立大学自 然・環境科学研究所としての2つの位置づけがあり、兵庫県の行政職員から専任され、研修を受講した野生 動物の保全と管理の専門家である森林動物専門員と、野生動物等に係る研究者を全国から公募し大学教員で もある研究員を配属しています。主な機能としては、

  1. 調査研究:野生動物、森林等に関わる科学的データの収集、蓄積や分析による将来予測及び政策提言等
  2. 施策の企画立案支援:調査研究の成果や現場での普及実績をもとに行政施策の企画立案の支援等
  3. 現場対応の技術支援:地域住民による出没対応の支援や農業被害に強い集落づくり等の指導
  4. 人材育成:行政職員、狩猟後継者育成、県民の学習支援、NPOなどの活動支援等
  5. 情報発信・エコミュージアム:野生動物に関する情報収集と発信・展示、相談窓口の設置等

の5つがあげられます。 当センターの調査研究成果は、兵庫県が策定している特定鳥獣(シカ・ツキノワグマ・ニホンザル・イノ シシ)保護管理計画の現状の把握、目標の設定等の科学的な基礎データとして活用されています。また、森 林動物専門員と研究員が連携して、保護管理の目標達成のために必要な現場対応支援を行うなど、兵庫県版 ワイルドワイフ・マネジメントの推進施設として重要な役割を担っています。

講演(2)『兵庫県但馬地域における被害対策の担い手育成と体制作り』

上田剛平(兵庫県但馬県民局朝来農林振興事務所)

 兵庫県では毎年多額の農林業被害(平成24 年度は約8 億円)が発生しており、そのうちの約30%は但馬地域で発生している。そのほとんどはシカ、イノシシによるものであるが、但馬地域にはクマやサルも生息しており、あらゆる野生鳥獣への対応が求められている。
 被害対策において、電気柵や金網柵などの防護柵は必須である。また、捕獲を効果的・継続的に実施していくことも不可欠である。しかし、被害対策の担い手である地域住民が、被害対策の正しい知識を身につけ、それを対策行動として持続的に実践できる体制がなければ、投資に見合った対策効果を得ることは難しい。 兵庫県但馬県民局では、こうした被害対策の担い手の確保・育成と、集落の被害対策推進体制作りに着目し、平成21 年度から独自の予算を用い、総合的な野生鳥獣被害対策(獣害シャットアウト作戦)の推進に取り組んでいる。
 本発表では、5 年間の獣害シャットアウト作戦の取り組みを振り返り、最近特に力を入れている狩猟後継者の育成事業、集落住民主体の捕獲の推進、新規わな猟免許取得者へのくくり罠捕獲指導、効率的・効果的な被害対策技術・知識の普及啓発手法の開発について紹介する。

講演(3)『三重県のサル被害対策の実践例』(篠山市リクエスト報告)

山端直人(三重県農業研究所)

 三重県では近年、サル、イノシシ、シカ3獣種の被害が深刻化しています。なかでもサルは「頭が良い」「電気柵では防げない」といった印象から「どうしようもない」という諦めの声を聞くことが多いのが実情です。三重県には約110~120 程度のサル群がいると推察され、エサ資源が多い地域では、10 数年前は山間部を中心としていた遊動域が徐々に集落や市街地に移動し、克つ、個体数が倍増している群れも存在するなど、サル被害を巡る状況は深刻化しています。このような状況下で、三重県では獣害対策の1つとして「獣害につよい集落づくり」に取り組んでおり、サル被害対策の5箇条として、1集落内外のエサ場を減らす 2隠れ場となる集落周辺環境を改善する 3サルにも効果がある防護柵で囲う 4集落で組織的に追い払う5被害対策の効果が出る様、群れの個体数をコントロールする という5項目を掲げ、そのうち1~4は地域で実践していただくべきこととして、集落づくりの支援を行っています。これらの取り組みの中から、サル被害をほぼ完全に抑え、効果も検証できたモデル的な集落が出現しています。なかでも、三重県伊賀市阿波地域では、サルの遊動域内にある7つの集落のうち複数の集落が1~4の対策に取り組んだことで、被害を防ぐだけでなく、群れの集落周辺への出没頻度を下げ、群れを山に返しつつあります。今回は、三重県農業研究所の実施したサルの行動調査や被害状況調査などのデータを基に、この阿波地域の他、三重県内でサル被害を軽減できた集落の実例を紹介します。

篠山市における地域主体の取り組み事例発表
(1)『アライグマ被害でつながった地域のオッチャン奮闘記』

西牧正美(NPO 法人大山捕獲隊理事長)

 私の故郷の篠山市大山上地区では、深刻なアライグマの被害。特に人家侵入や農作物被害が発生していました。そして何より外来生物がこれだけいると、本来の私たちの自然環境がなくなってしまうのではないかという危機感が強くなる中、2010 年に森林動物研究センターの学術捕獲のお手伝いをする機会を得ました。その後、アライグマが捕まる現場でアライグマの生態や足跡の見分け方、ワナの掛け方などを勉強し、日々、地域の同級生たちとも情報交換を行うなかで、何か一歩活動を始めたいと思うようになり、グループを結成しました。「地域のことは地域住民で何とかやっていけないか。」と考察する中で、タイミングよく募集があった「地域づくり活動支援事業」に、森林動物研究センターと篠山市と連携して申請し、資金を得て、活動を始めることができました。しかし、単に「捕獲」と一口に言っても、住民だけでは解からないことが一杯あります。特に法律や野生動物の生態や習性。そして、捕獲に関わるルールや必要な道具類など、其々に適切なレクチャーを受けながら、捕獲に取り組んできました。捕獲には大きな責任が伴います。そんな中で、特定の人に過度な負担が掛からないように進める捕獲圧の掛け方などを模索してきました。本日は、住民が主体的に捕獲活動に参画していくために取り組んだ内容をお話しする予定です。

(2)『「つらい」獣害対策に「楽しみ」を!-集落ぐるみの対策と意欲継続の工夫』

森本富夫(篠山市東木之部集落)

 私の集落、篠山市東木之部は、三方を山に囲われた16戸の小規模な農村集落である。昭和60年頃よりシカの出没が始まり、平成に入る頃には夜間集落内をシカが闊歩し、水稲や黒大豆に甚大な被害を及ぼすようになりました。平成16 年金網防護柵設置の実施にあたり、果敢にも尾根道設置を計画し、集落全員で伐り払いや資材の現場搬入を行いました。厳しい作業を通じて、獣害対策に対する集落共通意識が確立されたように思います。久しぶりに尾根道を歩くと、篠山市内を展望できそうな狼煙台跡や、雑木林の中に三つ葉つつじの群生地が確認でき、展望所や三つ葉つつじを隠している雑木の伐り払ったところ、集落住民の自慢の場所ができ、三つ葉つつじのトンネルを楽しみに、集落内外の人が登っていただくようになりました。防護柵設置により近年シカの被害はなくなりましたが、次は野生ザルの群れによる農作物被害が多発し始めました。しかし私たちは負けることなく、サルに対する獣害対策を学びつつ年齢に応じた役割分担、そして共同作業によるバッファゾーンの確保や、複数人にてのロケット花火等による追い払いにより、サルの出没は最小限に抑えている。集落存亡につながる「つらい」獣害対策を利用して、自らの力で自慢の「楽しみ」を作り出せたこと、また集落の農作物は集落ぐるみで守っていく意欲の継続について、お話しできれば嬉しく思います。

第19回「野生生物と社会」学会 公開シンポジウム(2)
野生生物を活かしたまちづくりの可能性
~野生生物と社会の未来をつなぐ~

日時:

2013 年11 月30 日(土)13:00~16:30

場所:

篠山市四季の森生涯学習センター(篠山市網掛429)
多目的ホール・入場無料

 野生生物を取り巻く環境は、希少種として保護が必要なものから鳥獣害など地域に負の 影響を与えるものまで様々あります。最近では、野生生物の保全や管理にむけては、地域 が主体となって取り組むことが重要だと考えられていますが、農山村では人口減少や高齢 化が進行し、持続可能な地域づくりが課題となっています。一方で、近年注目されている のは、コウノトリで知られる豊岡市のように、野生生物を資源としてとらえ、地域活性化 に活用する取り組みです。
 多元的な側面を持つ野生生物と地域社会。両者が持続的に共生していくためには、どの ようにしたらよいのでしょうか。そのヒントは野生生物の保全や管理に対する活動が、地 域を元気にするなど、まちづくりや地域づくりにつながるよう連携して取り組んでいくこ とではないでしょうか。このシンポジウムでは、生態学・社会学、野生生物保全・まちづ くりをベースに地域と連携した研究や活動をされている演者とパネリストをお招きし、 「野生生物を活かしたまちづくりの可能性」について議論します。

プログラム

13:00~13:10開会の挨拶

13:10~13:50 基調講演(1)
 『地域再生の選択肢としての自然再生』
  菊地直樹(総合地球環境学研究所/兵庫県立大学客員准教授)

13:50~14:30 基調講演(2)
 『野外生態系操作実験としての小さな自然再生』
  三橋弘宗(兵庫県立大学自然・環境科学研究所/兵庫県立人と自然の博物館)

14:30~14:40休憩

14:40~16:25 パネルディスカッション
 コーディネーター:
  横山真弓(兵庫県立大学自然・環境科学研究所)
 パネリスト:
 菊地直樹
 三橋弘宗
 伊藤一幸(神戸大学大学院農学研究科)
 小橋昭彦(NPO 法人 情報社会生活研究所)
 横山宜致(公益財団法人 兵庫丹波の森協会 丹波の森研究所)

16:25~16:30閉会の挨拶

基調講演(1)『地域再生の選択肢としての自然再生』

菊地直樹(総合地球環境学研究所/兵庫県立大学客員准教授)

 兵庫県但馬地方では、野生下で絶滅したコウノトリの野生復帰プロジェクトが進行しています。コウノトリの野生復帰とはコウノトリを軸に自然再生と地域再生を一体的にすすめていく包括的な取り組みでありますが、さまざまな自然再生は地域に何をもたらしているのでしょうか。本報告では、自然再生を地域での多元的な価値の創出に向けた選択肢として捉えなおし、それを成り立たせるガバナンスの要件、今後の地域再生に向けた見通しについて環境社会学の視点から考察することから、この問いについて、応答してみたいと思います。
 具体的には豊岡市田結地区で進められている放棄水田をコウノトリの生息環境として再生する事例に取り上げ、報告者らが開発中の自然再生の「社会的評価モデル」を用い、地域再生の選択肢としての自然再生の可能性を考えてみたいと思います。

基調講演(2)『野外生態系操作実験としての小さな自然再生』

三橋弘宗(兵庫県立大学自然・環境科学研究所/兵庫県立人と自然の博物館)

 失われた生態系の機能を修復し再生するためには、生態系の仕組みを理解し、その仕組みに関連する原因を取り除く対策を立てることが求められます。しかし、その対策およびその持続可能な運用ができない場合、取り組みが社会実装されにくいことが予想されます。このため、いかに簡便な方法で、地域の誰もが取り組むことができる自然再生の手段を開発することが求められています。これは、一種の野外操作実験としても捉えることができます。本報告では、小規模な対策の事例を水域の生態系を中心に紹介するとともに、その適用地域の選定や効果、さらには地域の計画論への位置づけや副次的な効果についても解説したいと思います。

パネリスト報告

「大学と地域の連携による環境保全型農業の実践から」

伊藤一幸(神戸大学大学院農学研究科)

 神戸大学農学部では「実践農学入門」「農業農村フィールド演習」(1回生)、「実践農学」(3回生) と土日の授業を設け、篠山市の農家や営農組合などに学生を預けて、実際の農業の大変さ、楽しさ、 農村の問題と発展などについて、農作業や地区のお祭りなどの実践を通して学習しています。毎年、 お世話になる集落を公募で選びますので、学生と農家は最初に入ったところで深い関係が築け、これ まで6つの集落と関係を持つことができました。取り組んだテーマで、環境保全や生物多様性に関係 したものでは、1生物ごよみの作成、2湿田泥んこバレー や運動会の開催、3営農組合のビオトー プの活用法、4有機水田における機械除草の展開、5集落マップ作りなど、学生の視点でそれぞれの 集落からいろいろなお宝探しをしています。

「丹波市におけるまちづくり活動の実践から」

小橋昭彦(NPO 法人情報社会生活研究所)

 NPO 法人情報社会生活研究所は、情報化を通したまちづくりが活動目的です。その一環として、地域づくり人材の育成に取り組んでいます。活動を通して、丹波市ではこの2、3 年、社会貢献への高い意識を持った若い移住者が増えてきていると実感しています。そうした人たちは、エコビレッジやトランジションタウンといったキーワードに敏感です。一方で、従来からの地縁社会は、野生動物との関係をおおらかに語る余裕を無くしています。これらふたつの集団を橋渡しすること、両者が共感して協働できる自然とのおつきあいを創造することが、野生生物と共生するまちづくりに資すると考えています。

「篠山市における自然環境を活かしたまちづくりの方向性」

横山宜致(公益財団法人兵庫丹波の森協会丹波の森研究所)

 丹波の森協会は丹波の森構想を推進するため23 年前に設立されました。25 年前の丹波の森宣言で「自然と文化を住民の共有財産」「私たちに維持発展させる責務がある」とした上で自然と文化をいかした「丹波の森づくりを進める」を丹波全世帯と事業所に配布し、2 万1千人余の署名で採択されました。丹波の森宣言に基づき丹波の森構想を策定し、植生調査、ホタル飼育、縄文の森教室、里山オーナー制度等、様々な取組みを行ってきています。同時に兵庫県は森構想に基づき緑条例を制定し、市は構想を将来像や理念として総合計画や諸計画に反映し、都市計画分野では乱開発に対処する施策は充実してきています。近年では、まちづくりの主体が小学校区の協議会等に移行し、環境保全や里山整備が推進されていますが、最も身近な住環境では生き物との共生は軽視され、否定される傾向にあります。地域全体の身近な生活環境として、共生環境を高める必要があると感じています。