第21回大会テーマセッション(TS)企画

テーマッセッション一覧表

大会テーマセッション

大会TS1 11月22日(日)
10:30~12:30
「バードウォッチングとエコツーリズム:地域資源の保全と利活用について考える」
企画者:新垣裕治(名桜大学)
A会場
大会TS2 11月23日(月・祝)
9:00~12:00
「野生生物とネコ問題」
企画者:長嶺隆(NPO法人どうぶつたちの病院沖縄)ほか

A会場

テーマセッション

TS1 11月21日(土)
13:00~15:30
「膨張する都市と野生動物 —環境学および法学的視点から—」
企画者:田口洋美(東北芸術工科大学)・高橋満彦(富山大学)
A会場
TS2 11月21日(土)
13:00~15:30
「徳之島の特異的な自然誌と生き物文化誌
~世界自然遺産登録後における自然資源活用の可能性~」
企画者:城ヶ原貴通(岡山理科大学)・身延睦美(NPO法人徳之島虹の回)
B会場
TS3 11月21日(土)
17:00~20:00
「マングース根絶にむけた技術開発の取り組み」
企画者:山田文雄(森林総合研究所)・城ヶ原貴通 (岡山理科大学)
A会場
TS4 11月21日(土)
17:00~20:00
「「野生生物と交通」に関する話題―琉球列島の今を知る」
企画者:浅利裕伸(株式会社長大)ほか
B会場
TS5 11月22日(日)
8:30~10:30
行政研究部会テーマセッション
「市民の声から政策提案・法改正を実現させるには――ロビイストは語る」
企画者:高橋満彦(富山大学)・上田剛平(兵庫県庁)
A会場
TS6 11月22日(日)
8:30~10:30
「観光資源化する野生動物との新たな関係:世界遺産知床におけるヒグマ問題」
企画者:敷田麻実(北海道大学)
B会場
TS7 11月22日(日)
8:30~10:30
「人と野生動物との関係性の再構築にむけた民間組織の多様な役割と可能性」
企画者:清野未恵子(神戸大学)
C会場
TS8 11月22日(日)
10:30~12:30
「新たな野生生物問題:人口減少時代をどう乗り切るか?」
企画者:江成広斗(山形大学)・角田裕志(埼玉県環境科学国際センター)
B会場
TS9 11月22日(日)
10:30~12:30
「地域と保全活動を結ぶ市民調査の可能性」
企画者:富田涼都(静岡大学)
C会場
TS10 11月23日(月・祝)
9:00~11:00
「ICTを用いた捕獲機器と処理技術開発の野生動物管理への活用場面の検討
~捕獲システムと被害防止技術の活用方法を考える~」
企画者:山端直人(三重県農業研究所)ほか
B会場
TS11 11月23日(月・祝)
9:00~12:00
「政策評価ツール「ロジックモデル」を学ぼう」
企画者:将来構想ワーキンググループ・青年部会
C会場(2-201)
TS12 11月23日(月・祝)
11:00~12:30
「社会科学はシマの生態系管理に貢献できるのか?―評価から実践に向けて―」
企画者:久保雄広(国立環境研究所)・金城達也(北海道大学)
B会場

第21回大会 テーマセッション(TS)企画趣旨

大会TS

大会TS1
バードウォッチングとエコツーリズム:地域資源の保全と利活用について考える

Birdwatching and Ecotourism: Consideration on the Local Resources Conservation and Utilization

新垣裕治*
ARAKAKI, Yuji

キーワード:バードウォチング、エコツーリズム、外国人観光客対応

 沖縄島北部地域(やんばる)は、「奄美・沖縄」世界自然遺産の暫定リストに登録され、日本及び本県を代表する自然環境の優れた地域の一つである。沖縄県の代表的な固有鳥類としてヤンバルクイナやノグチゲラ、アカヒゲ等を挙げることができる。これら鳥類は国内外の探鳥家の憧れの鳥類であり、また、沖縄の亜熱帯海洋性気候及びこれら要因等により形成される自然環境は探鳥家等の自然愛好家にとってはバードウォッチングだけでなく、自然体験(エコツーリズム等)の絶好の場所でもある。近年、沖縄を訪れる観光客の増加が著しく、特にアジア諸国からの外国人観光客の増加が顕著で、観光関連団体等においては早急な対応が求められる現状にある。アジア諸国ではバードウォチングが活発に行われ、愛好者人口としても決して少なくない。これら国々では、毎年バードウォチングをテーマとした様々なイベントが実施され、国内だけでなく海外からの参加も含めた国際的なイベントとして実施される場合も少なくない。これらの現状を見ていると、外国人観光客の新たな観光メニューとしてバードウォチングを含めたエコツーリズムへの取組が非常に重要になってくると考えることができる。しかし、現状としては、観光客(バードウォッチャー、フォトグラファー等)の増加により鳥類等の野生動物の生息状況、生息環境が悪化していることも指摘されている。また、適切なバードウォチング・ガイドがいるのか、バードウォチングの状況状自体が把握されていない現状にある。これに加え、外国人観光客を想定した場合に、対応できる人材(ガイド等)が不足しているもの大きな問題である。

 本セッションでは、県内外・海外におけるバードウォッチングやエコツーリズムの現状と課題についての情報共有を行い、環境保全(地域資源の保全)とその利活用等について議論をして行く。

演題

  • イントロダクション:Asian Bird Fair (ABF)からの示唆: 新垣裕治(名桜大学国際学群)
  • ボランティアツーリズムで野鳥の生息地を守る: 岡本裕子(公益財団法人日本野鳥の会)
  • 沖縄やんばるにおけるバードウォッチングの現状と課題:渡久地 豊(国指定屋我地鳥獣保護区管理員)
  • 地域主体のガイドツアーについて:山川雄二(NPO法人国頭ツーリズム協会)
  • 総合討論


* 名桜大学国際学群観光産業専攻

大会TS2
「野生生物とネコ問題」

Cat control for the conservation of endangered native species in Japan

長嶺隆*・塩野崎和美**・山田文雄***・佐々木哲朗****・岡奈理子*****
NAGAMINE, Takashi SHIONOSAKI, Kazumi YAMADA, Fumio SASAKI, Tetsuro
OKA, Nariko

キーワード:ノネコ、希少種、外来哺乳類、ネコ対策、トキソプラズマ

 ペットとして身近な存在であるネコは全国で約1000万頭が飼育されている。家族となったネコは人々の暮らしを豊かにし、かけがえの無い存在となる。しかしながら、高いハンティング能力をもつネコが適切に飼育されなかったとき、在来の野生生物を捕食し、生態系に大きな影響を及ぼしてしまうことになる。しかもそれが島嶼域の場合、種の絶滅を招きかねない。本テーマセッションでは、ネコを伴侶動物としてだけではなく、生態系に大きな影響を及ぼす外来哺乳類という視点で捉え、全国で発生している被害実態と対策を紹介し、その対策と課題を整理する。

  1. テーマセッション開催にあたって:長嶺隆(NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄)
  2. 基調講演
    1. トキソプラズマを知る ~ヒトのトキソプラズマ症とネコ~
      喜屋武向子(沖縄県衛生環境研究所) 
    2. いわゆる「ネコ問題」を法的側面から考察する
      諸坂佐利(神奈川大学 法学部)

  3. ネコ対策の事例紹介
    1. 小笠原における事例     佐々木哲朗(NPO法人 小笠原自然文化研究所)
    2. 沖縄における事例    飯塚布有子(NPO法人 どうぶつたちの病院 沖縄)
    3. 東京都御蔵島における事例  岡 奈理子((公財)山階鳥類研究所)
    4. 奄美・徳之島における事例  山田 文雄((国研)森林総合研究所)
    5. IWMC2015(札幌)ネコセッションの報告  塩野崎和美(京都大学)
  4. ディスカッション



* NPO法人 どうぶつたちの病院 沖縄 ** 京都大学大学院地球環境学舎 *** (国研)森林総合研究所  **** NPO法人小笠原自然文化研究所  ***** (公財)山階鳥類研究所 



TS1
膨張する都市と野生動物 —環境学および法学的視点から—

New Perspectives from the Environmental Studies and Legal Studies for Wildlife Management in Urbanized Area of Japan

田口洋美* ・ 高橋満彦**
TAGUCHI,Hiromi TAKAHASHI,Mitsuhiko

キーワード: 膨張する都市  野生動物保護管理  強化される権利意識  駆除と狩猟

企画趣旨

 大型獣による人里出没という現象は、今や中山間地域だけの問題ではなくなり、地方都市周辺や市街地内部へと緩やかにシフトしはじめている。都市化現象は、物理的な都市の拡大だけではなく、意識の上でも法意識・権利意識の強化という形で普遍化しつつある。そこで、本テーマセッションでは現在進行している大型獣による人口密集地、市街地への出没に対応すべき手法や考え方といった人間の側の諸問題を議論する。

 とりわけ都市および市街地は私的土地所有の集合体であり、そこで実施される駆除・排除行為に関する法的な裏付けと市民・住民の合意形成に関する議論はまだ具体的なかたちとはなっていない。狩猟という行為、活動が地域においては一定の公共性を有し、私的所有を超えて実施されてきた過去の姿を検証し、この考え方が地方都市や町、およびその周辺においてどのような理論的枠組みを構築すべきか、議論を開始したい。

 本テーマセッションでは、特に都市という私有権の集合体における法制度上の問題点や今後この問題を考えて行く上での基本となる公衆衛生、人口密集地内での駆除防除手法、合意形成のあり方、威嚇追い払いを含む駆除狩猟の公共性と場の問題など諸要件の整理と抽出を目的とする。

演 題

  • イントロダクション〜地方都市の大型獣出没と防衛システムについて:田口洋美(東北芸術工科大学)
  • 地方都市と野生生物の関係における構造的な問題と合意形成の課題:鬼頭秀一(星槎大学)
  • 都市の野生動物問題における狩猟者と土地所有者の軋轢:高橋満彦(富山大学)
  • 狩猟者の居住地域と狩猟に対する意識・行動との関係:上田剛平(朝来農林振興事務所)
  • ディスカッション:コメンテーター 池田透(北海道大学大学院文学研究科)

尚、本セッションは文部科学省・日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究 (B)『野生動物の生息域拡大期における都市防衛システムの開発に関する環境学研究』チームによって開催する。


*東北芸術工科大学芸術学部   **富山大学人間発達科学部



TS2
徳之島の特異的な自然誌と生き物文化誌
~世界自然遺産登録後における自然資源活用の可能性~

Specific natural history and biosophia of Tokunoshima island
- Possibility of utilization of natural resources after registered for Natural World Heritage-

城ヶ原貴通*・美延睦美**
JOGAHARA, Takamichi MINOBE, Mutsumi

キーワード:徳之島、生物多様性、自然資源、世界自然遺産、持続的利用

1.趣旨

 現在、奄美・琉球世界自然遺産登録に向けた取り組みが、環境省・地元自治体を中心として進められている。登録候補地としては、徳之島の他に、奄美大島、沖縄島北部、西表島があげられており、これら地域は、固有生物種が多数生息している上、多様性に富んだ世界的ホットスポットの一つである。しかし、これら地域の生物相の固有性については、当該研究者を除けばあまり知られていない。特に徳之島については、1970年代頃までは、新婚旅行ブームもあり多くの観光客が訪れていたが、その後は、沖縄へ観光客が流れ、ホテルの閉鎖や商業地の衰退が続いてきた。こうして現在では、徳之島の知名度が高いとはいえない状況になっている。徳之島は、出生率日本一の「子宝」、長寿世界一の泉重千代に代表される「長寿」、「闘牛」に代表される民族的・文化的特徴など、その魅力はけっして失われているわけではない。生物相についても地元の方々の努力により、今なお徳之島は固有種と多様性を擁している。本テーマセッションでは、徳之島の生物相ならびに文化的に関わりの深い生物資源、地元団体の自然環境への取り組みについて議論を深めたい。講演を通して、徳之島の自然誌・生き物文化誌の理解をすすめるとともに、世界自然遺産登録後に向けた持続的な資源の利活用、さらに地域活性に繋がっていくことが期待される。

2.講演者と演題

  • 宮本旬子(鹿児島大学)
      徳之島の植物相の概要~その持続的利用に向けて~
  • 城ヶ原貴通(岡山理科大学)
      徳之島に棲む特異的な哺乳類と島民参加型哺乳類調査
  • 金城達也(北海道大学)
      「自然」を使う人々−「シマの生活」における自然資源の布置−
  • 池村 茂(NPO法人 徳之島虹の会)
      歴史の中のヤコウガイ〜文化的利用と持続的活用〜
  • 美延睦美(NPO法人 徳之島虹の会)
      マアレィナリを紡ぐ〜次世代につなぎたい島の自然・文化〜

3.総合討論



*岡山理科大学 理学部 動物学科  **NPO法人 徳之島虹の会



TS3
マングース根絶にむけた技術開発の取り組み

Technology development efforts for mongoose eradication

 山田文雄 *・城ヶ原貴通**
Fumio Yamada Takamichi, Jogahara

キーワード:外来種、マングース、探索犬、柵、化学的防除、侵入対策

1.趣旨

 現在、沖縄島北部地域および奄美大島では特定外来生物であるマングースの根絶への取り組みが行われている。マングースの根絶への道のりは非常に厳しいものであるが、これまでに様々な技術開発に取り組んできた。近年、その成果があがり、根絶への道筋が見えつつある。今回、これまで行ってきたマングースの根絶技術ならびに現在開発中の技術を紹介し、今後の取り組みについて参加者と共に検討したい。

2.講演者と講演タイトル

  • 後藤義仁(自然研・奄美マングースバスターズ)・松田維 (自然研)
    「奄美大島における探索犬を用いた残存マングースの捕獲手法」
  • 河内紀浩(八千代)・新里和野(八千代)
    「沖縄島における探索犬を用いた効果的なマングース捕獲手法」
  • 富永優太郎(南西環境研究所)
    「沖縄島における糞探索犬によるモニタリングおよび集中捕獲」
  • 渡邉環樹(八千代)
    「沖縄島におけるマングース防除フェンスの開発・導入」
  • 城ヶ原貴通(岡山理科大)・中田勝士(環境省やんばる野生生物保護センター)
    「化学的防除手法の開発と導入法の検討」
  • 諸澤崇裕(自然研)・城ヶ原貴通(岡山理科大)
    「複数のモニタリングツールを用いたマングース根絶評価手法の検討」
  • 山田文雄(森林総研)・諸澤崇裕(自然研)
    「ハワイ・カウアイ島におけるマングース侵入対策の取り組みとわが国の対応」

3.総合討論



*国立研究開発法人 森林総合研究所 **岡山理科大学 理学部 動物学科



TS4
「野生生物と交通」に関する話題―琉球列島の今を知る

Toward information sharing on wildlife and traffic issues

浅利裕伸*,**・鹿野たか嶺**,***・野呂美紗子**,***・山田芳樹**,****
長嶺隆*****・山本以智人******・金城道男*****・金城貴也*****
ASARI, Yushin SHIKANO, Takane NORO, Misako, YAMADA, Yoshiki
NAGAMINE, Takashi YAMAMOTO, Ichihito KINJYO, Michio KINJYO, Takaya

キーワード:交通事故、生息地分断化、南西諸島、保全対策、ロードキル

 日本の広く、密な交通網の存在は、野生生物に直接的または間接的な影響を与える。そのため、特に道路事業ではロードキル対策や生息地の連続性確保といった保全対策が講じられてきているが、他地域の事例や対象の生態を十分に反映・活用しているものは少ないと感じられる。欧米では、ロードエコロジー(道路生態学)という概念が広がってきており、書籍や論文も多数あるが、日本では保全対策や問題解決の参考となる書籍が少なく、研究論文も限られている。このような「野生生物と交通」に関する情報や研究の不足は、各地域での生態系保全に負の影響をもたらすだろう。

 南北に伸びる日本では、地域によって地形や生物相が大きく異なる。そのため、他地域の事例や対象種の生態を踏まえて、より効果的な手法を検討することは非常に重要である。そのため、われわれは琉球列島と本州、北海道の情報交換を目的として、各地域での「野生生物と交通」に関する課題や保全事例を取り上げるとともに、今後の日本全体のロードエコロジー分野について議論する。

1.テーマセッション開催にあたって

2.各地域で起こっている問題や保全事例

  • 「琉球列島の生物相とロードキルの現状-希少種・固有種の交通事故対策」:山本以智人(やんばる自然保護官事務所)
  • 「奄美大島での問題―アマミノクロウサギの交通事故対策」:木元侑菜(奄美自然保護官事務所)
  • 「西表島での問題―イリオモテヤマネコの交通事故対策」:田口麻子(西表自然保護官事務所)
  • 「琉球列島での事例(1)―沖縄県土木事務所の取組み」:平良啓達・柘植優(沖縄県北部土木事務所)
  • 「琉球列島での事例(2)―やんばる地域での技術開発」:福島新(日本工営株式会社)
  • 「琉球列島での事例(3)―スマートフォンアプリを活用したロードキル対策」:蒲池康浩・可児里砂(株式会社インターリスク総研)
  • 「琉球列島での事例(4)―民間団体の取組み」:金城道男(NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄)
  • 「一般道におけるホンドタヌキのロードキル発生に関する一考察―神奈川県を事例として」:園田陽一氏(株式会社地域環境計画)
  • 「ロードキル抑制対策に関する取組み―中型動物の行動実験について―」:金子武史((株)高速道路総合研究所)・諸藤聡子((株)協和コンサルタンツ)・簗瀬知史((株)高速道路総合研究所)

3.議論

現状の課題の整理・意見交換、将来の日本のロードエコロジーに関する意見交換



*(株)長大  **ロードエコロジー研究会  ***(一社)北海道開発技術センター  ****(株)ドーコン  ***** NPO法人 どうぶつたちの病院 沖縄 ****** 環境省やんばる野生生物保護センター



TS5
行政研究部会テーマセッション
市民の声から政策提案・法改正を実現させるには――ロビイストは語る

How can citizens’ voice be heard and become law and policy?

高橋満彦*・上田剛平**
TAKAHASHI, Mitsuhiko UEDA, Gouhei

キーワード:市民参加、議員立法、野生動物管理、NGO、環境政策

 近年、野生生物に関する法制度を巡っては、昨年の鳥獣保護法改正や、種の保存法の保護指定種を200種に増やす方針の決定など、大きな動きがある。野生生物に関連する法制度は90年代後半から特定外来生物法、生物多様性基本法や自然再生法の制定、鳥獣保護法改正による特定計画制度の導入など、めまぐるしく変動してきている。しかし、80年代以前との違いは変更の多い少ないだけではなく、むしろ法律の制定や改正にあたって、市民団体・NGOの政策提言が議論を左右し、また従来の政府提案だけではなく、NPOと協働した議員提案による立法活動が増えたことであろう。しかし、今回の開催地沖縄を例にとるまでもなく、地域の声が国の政治を動かすには、まだハードルは高い。

 そこで今回は、WWFジャパンの職員で、ロビイング活動の実践でおなじみの草刈さんをお招きして、NGOが代弁する草の根の声を政策提案や法改正などに現実にするためのロビイストとしての方法論を講演いただく。2021年の環境行政50年に向けて、想定できる今後5年間の内外の動きと、これに向けてどのようにロビー活動すべきか、市民団体・NGOだけではなく、地域や地方自治体からの政策提言にも参考になるだろう。今後の学会や部会活動のアウトプット手法を学ぶ機会としても提供したい。

演 題

  • イントロダクション~環境政策における市民とNGO: 高橋満彦(富山大学)
  • 講演~市民の声から政策提案・法改正を実現させるには―ロビイストは語る:草刈秀紀(WWFジャパン)
  • コメント~地方行政の立場から:上田剛平(兵庫県)
  • 質疑応答、討論

 なお、本セッションは、行政研究部会が部会セミナとして主催します。非部会員の方の参加も歓迎します。



*富山大学、行政研究部会幹事 **兵庫県庁、行政研究部会副部会長



TS6
観光資源化する野生動物との新たな関係:世界遺産知床におけるヒグマ問題

New Conflict Management over Brown Bear: a Case of Nature Tourism in Shiretoko World Heritage Area

敷田麻実*・能勢峰**・秋葉圭太**
SHIKIDA, Asami NOSE, Takane AKIBA, Keita

キーワード:知床世界自然遺産、観光、資源化、マーケティング

 知床半島は1964年の国立公園(知床国立公園)指定を始め、1980年に「原生自然環境保全地域」(遠音別岳周辺)、1990年には林野庁の「森林生態系保護地域」に指定された貴重な自然環境である。さらに、2005年には世界自然遺産に登録された。

 世界遺産登録にあたっては、①北半球で最も低緯度の季節海氷域の影響を受けた特異な生態系、②海洋生態系と陸上生態系の相互関係、③国際的希少種の重要な繁殖地や越冬地で種の存続にとって重要であることが顕著な普遍的価値(OUV:Outstanding Universal Value)として評価された。

 一方、こうした優れた自然は観光資源としての魅力も大きく、1960年代から「知床観光」として資源開発が進められてきた。特に大型の野生生物は、観光客にとっては重要な「観光魅力」であり、また観光産業にとっても活用したい「観光資源」である。現在の知床は、ヒグマ・エゾシカ・キタキツネなどの野生動物を見る、接触できる場所として、観光客や観光事業者から認識されている。特にヒグマは、知床の観光資源として急速に観光資源化されている。しかし、観光利用によるクマの人馴れが進行し、観光客・カメラマンの接近による事故の恐れや、地域社会との軋轢が顕在化している。

 知床では、こうした人馴れや接近に対処するため、ヒグマの追い払いを実施してきた。しかし、ヒグマを観光利用から遠ざけることで、観光客や観光事業者との対立も発生する。また、自由利用が基本の国立公園内では、強力な管理で観光客を統制することも難しい。そのため、観光資源化されていない従来型の野生生物管理とは異なる、リスクコミュニケーションや観光マーケティングを援用した「新たなアプローチ」が求められている。

 そこでこのセッションでは、観光資源化している知床のヒグマの現状を説明し、ヒグマに関わるアクターを明らかにした上で、アクターの立場や利害を超えた調整や管理のシステムについて議論する。今回は知床における野生生物の問題を扱うが、観光資源化する野生生物の問題は今後一般的になっていくと思われ、野生生物とその利用のあり方を考えるための重要な示唆となるだろう。

演 題

  • 趣旨説明:観光現場でイメージ化する野生生物と新たな管理の枠組み 敷田麻実(北海道大学)
  • 観光資源化したヒグマの現状とリスク管理の多様化 能勢峰(知床財団)
  • 利用者による選択と情報の効果的活用による観光客の管理‐知床五湖利用調整地区制度の事例        秋葉圭太(知床財団)

以上の発表のあと、会場の参加者も含めて、観光資源化された野生生物の新たな管理について議論します。



*正会員・北海道大学 **正会員・知床財団



TS7
人と野生動物との関係性の再構築にむけた民間組織の多様な役割と可能性

Possibility and variety of roles for re-construction of relationship between human and animals.

清野未恵子*
Mieko KIYONO

キーワード:民間組織、多様な役割、人と動物の関係性、コミュニティ

 今、地域社会において人と野生動物の関係性の再構築が求められている。その役割を担うのは民間組織等の多様な主体であり、その役割の明瞭化も合わせて必要となってくる。

 新たな鳥獣保護管理法では、認定鳥獣捕獲等事業者制度が導入され、野生鳥獣の保護管理に民間事業者のこれまで以上の参入が予想されている。一方、人口減少・高齢化が進行する地域社会で不足しているのは、捕獲の担い手だけではない。本来、獣害対策は地域が主体となって取り組むべきではあるが、高齢過疎化が進むいま、対策を継続することが困難な地域も多く存在している現状である。そうした現状に都市住民等の外部人材を活用する動きもあるが、その方法論についての議論は不十分である。また、地域で効果的な、野生動物管理を進めるためには、市町村行政が担う役割も大きいが、市町村行政の多くが野生動物管理の専門性を有した人材や部門を整備できていない課題は言及されて久しい。

 今後進行していく人口減少社会の中で上記の課題はますます深刻化していくものと思われる。こうしたなか、注目されるのが新しい民間組織による多様な役割である。このテーマセッションでは、人と野生動物の関係性の再構築に向けた業務・活動を展開する新旧さまざまな団体・企業を招いている。まず、趣旨説明をおこなったうえで、【話題1】 では、比較的大規模な民間業者の視点から、【話題2】 では、NPOという非営利団体の視点から、【話題3】では、市民活動団体としての立場から、それぞれの現場における地域の獣害対策や地域づくり活動にむけた現状、目的、将来の方向性について話題提供を行う。それらの話題をふまえて、新たな時代の野生動物管理における民間組織の多様な役割とその可能性や、行政・大学・研究機関との連携の可能性について議論する。

演 題

  • イントロダクション:自立するコミュニティ実現のための民間組織の役割: 清野未恵子(神戸大学)
  • 話題1.奥のイノシシ垣を活用した村興し: 宮城邦昌(シシ垣ネットワークと奥の猪垣研究会)
  • 話題2.行政の野生動物管理を支援する民間企業の役割と可能性: 清野紘典(株式会社 野生動物保護管理事務所)
  • 話題3.獣害対策と地域再生を両立する中間支援の役割と可能性: 鈴木克哉(特定非営利活動法人 里地里山問題研究所)
  • 総合討論



*神戸大学大学院人間発達環境学研究科



TS8
新たな野生生物問題:人口減少時代をどう乗り切るか?

Upcoming wildlife issues caused by shrinking societies of Japan

江成広斗*・角田裕志**
ENARI, Hiroto TSUNODA, Hiroshi

キーワード:耕作放棄、絶滅危惧植物、野生動物管理、ため池、土地利用予測

 Japan Syndromeという用語が世界において認知されはじめている。これは急速な人口減少によって連鎖的に生じうる様々な社会問題を指し、他の先進国に先駆けて、都市・農村を含む全国スケールで人口減少時代を迎えた日本を象徴する用語として使われている。日本において、いかなる人口政策を採用したとしても、今後数十年間は人口減少というトレンドは変わることはなく、2050年までに日本の6割以上の集落で人口が半減すると予想されている。こうした地域社会の急速な空洞化という歴史上はじめてのイベントが、生物多様性保全や野生生物の管理の現場において、どのような課題をもたらしうるのかに関する整理は緒についたばかりであり、それらの解決策の検討は喫緊の課題である。

 本セッションでは、人口減少が野生生物にもたらす影響に関して、これまでに何が明らかにされてきており、何が課題として残されているのかを、様々な生物群を対象に整理すること、そしてそれらの課題への対応策を参加者とともに広く議論することを目的とする。対象とする生物群の一つ目は水生生物である【話題1】。農山村における生業としての農業の空洞化により、ため池(人工止水域)の管理放棄が各地で進行している。これは、農村景観の変化にととまらず、水生生物の多様性保全に与える影響が懸念されている。そこで、こうした現況の事例報告と、その対策について紹介する。続いて、絶滅危惧植物に焦点を当てる【話題2】。ここでは、農地利用の変化(大規模化、耕作放棄)が絶滅危惧植物の分布に及ぼす影響の評価、更には生物多様性の保全を含めた持続的農業に求められる農地利用のゾーニングに関するアイディアを紹介する。最後に、土地利用変化が大型哺乳類の管理に及ぼす課題を取り上げる【話題3】。ここでは、過去20年間の人口と土地利用に関する全国データを用いて、将来の土地利用を予測するための統計モデルを紹介する。そして、今後の土地利用変化が大型哺乳類の分布に及ぼす影響を検討する。

演 題

  • イントロダクション~人口減少社会がもたらす期待と不安: 江成広斗(山形大学)
  • 話題1.ため池の管理放棄と改廃による生態系影響~人口減少で何が起きるか?: 角田裕志(埼玉県環境科学国際センター)
  • 話題2.生物多様性と生態系機能から農地利用を仕分ける: 大澤剛士(国立研究開発法人 農業環境技術研究所)
  • 話題3.集中か?分散か?将来の人口の空間分布が日本の土地利用に及ぼす影響を予測する~野生動物と人間の軋轢問題の解消に向けて: 大橋春香(国立研究開発法人 森林総合研究所)・深澤圭太・有賀敏典・肱岡靖明・松井哲哉
  • 総合討論

 なお、本セッションは、「山形大学YU-COE (C) 人口減少社会適合型野生動物管理システム創成拠点」、及び「共同研究会:自然再生研究会」のサポートにより開催する。



*山形大学農学部 **埼玉県環境科学国際センター



TS9
地域と保全活動を結ぶ市民調査の可能性

Potentials of Participatory Research for Building of a Sustainable Society

富田涼都*
TOMITA, Ryoto

キーワード:市民調査、生物多様性保全、地域おこし、学びのプロセス、資源管理の「埋め戻し」

 「持続可能な発展」や「生態系サービス」などの議論に象徴されるように、生物多様性の保全と地域の発展や生活の両立を目指すことが重要な社会的課題であると指摘されて久しい。しかし、それを具体的に誰が、どのように実現するのが望ましいのか。また、それを具体的にどんなプロセスによって取り組むべきかなど、いくつかの大きな課題が存在している。

 環境社会学などの領域では、例えば「生物多様性の保全」を志向する専門家やNGO等と、「地域の生活・活性化」を志向する地元住民や行政機関等の関係者間で、現場において何を具体的な問題とするのかを起点とする各種の「ズレ」が生じることが報告されている。仮に問題設定の「ズレ」があっても取り組みとして両立し得る潜在的な可能性は存在するが、そもそもこの「ズレ」が十分意識されないままに取り組みが進められたり、あるいは「上から目線」で「ズレ」を解消させようとすると、関係者間の(不毛な)対立を生じたり、取り組みが頓挫したりする要因になることも指摘されている。

 このテーマセッションでは、こうした異なる目的意識を持った関係者間の「ズレ」の架け橋となる具体的な方法論の一つとして、専門家以外が参加する「市民調査」に注目したい。すでに市民調査自体は、古くは足尾鉱毒事件にともなって行われた「谷中学」など、決して少なくない事例が知られている。しかし、生物多様性の保全の現場における意義や方法論としての可能性などは、必ずしも学術的な検討が十分されてきたとは言い難い。また、この手法は、ワイルドライフ・フォーラム誌(2014年春夏号)で企画者が提起した、地域社会の文脈に自然資源管理・利用を「埋め戻す」ための方法論としても位置付け得るだろう。

 当日は、地元・沖縄を含む、生物多様性の保全や地域の歴史文化にかかわる市民参加による各種調査の事例報告をもとにして、市民調査が持つ地域と保全活動を結ぶ可能性について議論したい。

演 題

  • 趣旨説明 なぜ、市民調査なのか?
    富田 涼都(静岡大学)
  • 報告1 泡瀬干潟における市民参加による総合調査とその可能性 
    前川 盛治(泡瀬干潟を守る連絡会)
  • 報告2 「人と自然のふれあい調査」の実践とその可能性
    朱宮 丈晴(日本自然保護協会)
  • 報告3 市民調査による学びと交流が地域社会と生物多様性の保全を結ぶ可能性
    富田 涼都(静岡大学)
  • 総合討論


*静岡大学農学部



TS10
ICTを用いた捕獲機器と処理技術開発の野生動物管理への活用場面の検討
~捕獲システムと被害防止技術の活用方法を考える~

Application of Remote Monitoring and Automatic Trapping using ICT and Devices for Efficient Culling of Trapped-animals

山端直人*・平田滋樹**・小寺祐二***
YAMABATA, Naoto HIRATA, Shigeki KODERA, Yuuji

キーワード:ICT、捕獲、処理、被害対策、野生動物管理

 これまでの被害管理に関わる技術開発や研究の成果により、野生動物による農林業被害は一部では軽減されつつある。一方で、シカの高密度地域や追い払いが困難なサルの多頭群など、被害対策と同時に個体数を管理すべき状況もあり、他の農業分野同様、近年、野生動物管理にもICTを用いた技術が導入されつつある。

 このような状況の中、本テーマセッションでは、野生動物の個体数管理の手法の1つとして、昨今普及が進みつつある大型捕獲施設をより効果的に使用するための、ICTを用いた大型檻の遠隔監視・操作システム(クラウド型まるみえホカクン)の開発と、捕獲された個体を効率的に処理するための技術について紹介する。

 また、これら技術を広域的に現地導入することで、被害管理と個体数管理を進めた現地実証の成果や課題、現行の個体数管理技術との効果や経済性等について報告する。

 そして、このような新たな技術を効果的に活用するため、技術の導入方法や効果検証の必要性、改善点などの課題について考察すると共に、意見交換を行う。

演 題

  • イントロダクション~開発の背景と課題~.......................................................三重県農業研究所 山端 直人
  • ICTを用いた檻の遠隔監視・操作装置(クラウド型まる三重ホカクン)の開発
    .................................鳥羽商船高等専門学校 江口 修央
  • 捕獲個体の効率的な処理技術や機器の開発について......................長崎県農林部 平田 滋樹
  • ICTを用いた捕獲技術の経済性評価..................................................................農研機構中央農研 佐藤 正衛、竹内 正彦
  • 開発された技術の評価と適用場面について.................................................宇都宮大学 小寺 祐二
  • 総合討論

本セッションは、「平成27年度攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」のうち「ICTを用いたシカ、イノシシ、サルの被害防止、捕獲、処理一貫体系技術の実証」および「革新的な森林の更新技術に関する経済的評価研究」の成果の一部として報告する



*三重県農業研究所 **長崎県農林部 *** 宇都宮大学



TS11
政策評価ツール「ロジックモデル」を学ぼう

Learning “logic model” as policy evaluation

将来構想ワーキンググループ・青年部会
Future planning working group Green Forum

キーワード:政策評価、将来構想、ロジックモデル、ワークショップ

 本テーマセッション(以下、TSと記す)の目的はロジックモデルを学び、そして実際に作ってみることで、その有効性をTS参加者で共有することである。ロジックモデルとは、施策の論理構造を明らかにし、施策がその目的を達成するまでの論理的な因果関係を図化したものである。すなわち、提案する施策が市場のニーズを満たしているか、また施策の実行に必要な投資と期待される成果は何かといった、施策の採用に必要な情報を、意思決定の場に提供する役割を担う。ロジックモデルは、公共政策だけでなく、企業活動にも応用されている評価ツールの1つである。本TSでは、まずロジックモデルの概念について情報提供する。本TSにおいては、このロジックモデルの具体的な応用を参加者とともに学ぶために、「野生生物と社会」学会(以下、学会と記す)の将来構想を用いたワークショップ形式のケーススタディを行う。

 約5年前、学会(当時の名称は野生生物保護学会)では、学会の将来を考える将来構想検討会(以下、検討会と記す)を設置した。検討会では、学会の今後10年の方向性、緊急に取り組むべき課題、5年以内に取り組むべき課題を示し、理事会、行政研究部会、青年部会等が4つのアクションプランを作成した。さらに2015年までの成果を評価し、計画を再検討するため、5年後に第2期将来構想ワーキンググループ(以下、WGと記す)の設置を提言した。この提言を受け、2015年5月に開催された学会理事会において、WGの発足が承認され、鈴木正嗣副会長を座長とした計10名のWGメンバーによる議論がスタートした。

 本TSでは、先に学んだロジックモデルを用いて、TS参加者がこのWGで検討中の学会のグランドデザイン(案)を用いた仮想的な政策立案を行うワークショップにおいて、学会の将来構想を描くケーススタディを行う。ワークショップでは、青年部会、行政研究部会などのグループに、会員区分を問わず自由に分かれて討議する。討議するテーマは、学会が知のプラットホームとして発展し、野生生物と社会の様々な問題解決に寄与するために必要となる投資、手段、期待される成果等についてである。討議した結果をプレゼンテーションにまとめて発表し、その成果は学会の将来構想の具現化に活用する。

  1. ロジックモデルとは何か? 青年部会副部会長 桜井 良(立命館大学)
  2. 学会の今後10年の方向性(案) 将来構想WG副座長 上田 剛平(兵庫県庁)
  3. 学会の将来構想ワークショップ TS参加者・将来構想WGメンバー

司会・コメンテーター 将来構想WG座長 鈴木 正嗣(岐阜大学)



TS12
社会科学はシマの生態系管理に貢献できるのか?
―評価から実践に向けて―

How does social science contribute to Island Ecosystem Management? Beyond assessment to practice

久保雄広*・金城達也**
KUBO, Takahiro Kinjo, Tatsuya

キーワード:社会科学、生態系管理、シマ、地域実践、奄美・琉球

 本テーマセッションの目的は、奄美・沖縄における観光利用、生業活動、里海づくりなどを事例に、 “シマ”の生態系保全と地域社会の取り組みを繋げ、持続的な生態系管理を実現するために社会科学がどのような役割を担えるか、議論を深めることである。

 現在、奄美・沖縄において、環境省や地元自治体が中心となり、世界自然遺産登録に向けた取り組みが進められている。これらの地域では、世界自然遺産登録に向け、生態系や自然資源をどう管理していくかが課題となっており、固有種や希少種をはじめとしたグローバルな価値の高い生物多様性が特に重要視されている。しかし、こうしたグローバルな価値の保全を目的とする生態系管理はこれまでに自然と密接に関わりながら暮らしを営んできた地域社会が有する文脈から乖離し、地域の人々の生活を圧迫してしまう可能性がある。

 今後、地域社会における取り組みを“シマ”の生態系保全と繋げるために社会科学がどのような役割を担えるか、実際の資源利用の現場から考えてみたい。

 本テーマセッションでは、奄美・沖縄を事例に“シマ”がもつ観光需要の高さを紹介するとともに、観光産業を活性化させるという視点から生物多様性保全を扱うことのメリットを紹介する【話題1】。つぎに、生活を成り立たせるための地域住民の生業活動における取り組みが、生態系管理に資する社会的なしくみを生み出している事例を紹介する【話題2】。そして最後に、“シマ”のサンゴ礁保全活動を事例に、地域社会の在来知を生かした地域づくりにおける協働が生態系管理に実際に貢献した事例について紹介する【話題3】。これらの事例報告を通して、社会科学がシマの生態系管理にどう貢献できるのか、また、管理を見据えた時に生物学や生態学の議論とどこに齟齬があるのか、どのように協働することで効果的なのか、議論を重ねたいと考えている。

演題

  • 趣旨説明 
  • 話題1.“シマ”の観光利用から生態系管理を考える:久保雄広(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)
  • 話題2.“シマ”の生業活動から生態系管理を考える:金城達也(北海道大学大学院 文学研究科)
  • 話題3.“シマ”を単位とした生態系管理を考える―総有の財産としてのサンゴ礁―:上村真仁(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン・WWFサンゴ礁保護研究センター)
  • コメント:深澤圭太(国立環境研究所)
  • 総合討論 


*研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター
**北海道大学大学院 文学研究科