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大会要旨集 口頭発表01/02/03/04/05/06/07/08/09/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20/21/22/23/24/25/26 01東京都多摩丘陵地帯におけるオオタカの食性
*1千葉 浩克・1古林 賢恒・2高橋 久子
1東京農工大学・2東京里山の会
生息環境の攪乱が激しい都市周辺部の丘陵地帯に生息する個体を対象に食性調査を行った。調査地は、東京都稲城市にある丘陵地帯で、標高30mから130mに位置し、調査地の中央を東西に川が流れ、川沿いおよび北東部の平野部は主に住宅地と畑・水田、南側の丘陵地にはクヌギ・コナラの二次林、スギ・ヒノキ林、竹林、ゴルフ場、谷戸田、休耕田がモザイク状に分布する。 古林賢恒 東京農工大学農学部 〒183-8509 府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5746 E-mail:kengof@cc.tuat.ac.jp 02栃木県那須野ケ原におけるオオタカの営巣環境
*1堀江 玲子・2遠藤 孝一・2野中 純・2船津丸 弘樹・1小金澤 正昭
1宇都宮大学・2オオタカ保護基金/日本野鳥の会栃木県支部
オオタカの保護には、生息環境の保全が極めて重要であるが、それには営巣環境と採食環境の両面からアプローチする必要がある。 堀江玲子 宇都宮大学大学院農学研究科 〒321-8505 宇都宮市峰350 宇都宮大学農学部森林科学科野生鳥獣管理学研究室 Tel:028-649-5548 E-mai:ma014515@cc.utsunomiya-u.ac.jp 03河川中流域における営巣場所造成によるコアジサシの保護
*遠藤 孝一・内田 裕之・千野 繁
日本野鳥の会栃木県支部 コアジサシ(Sterna albifrons)は、日本には夏鳥として渡来し、本州以南の水辺で集団で繁殖する。国内での生息数は、10,000-20,000羽程度と考えられており、レッドデータブックで「絶滅危惧「類」、種の保存法で「国際希少種」に指定されている。 栃木県宇都宮市内の鬼怒川では、過去において10-20つがいのコアジサシのコロニーが確認されていたが、近年はほとんど繁殖がみられなくなっていた。ところが、河川公園内に営巣に適した環境を造成して誘致を試みた結果、1997年、1998年と2年連続して数十つがいが営巣したので、ここに報告する。
遠藤孝一 日本野鳥の会栃木県支部 〒320-0051 栃木県宇都宮市上戸祭町2910-13 TEL:028-621-1918 FAX:028-621-1924 Email:k-endo@ucatv.ne.jp 04草地利用形態がもたらす鳥類への影響
*時 坤・井村 治
畜産草地研究所 温帯モンスーン気候域に位置する日本では、自然草地はまれで、火入れ、放牧、採草など人為的撹乱によって、草地が成立している。これらの人工草地や二次草地は、畜産や有機肥料などの目的で維持されてきたが、長期に渡って様々な生き物の重要な生息地ともなっている。しかし、近年における畜産業の衰退や農業の近代化に伴って草地が急速に減りつつあり、多くの草原性生物種の存続が脅かされている。演者らは、草原性鳥類を対象に、人工草地における放牧と採草がどのように鳥類群集の構造や種のハビタット利用に影響をもたらすかについて研究を行った。その結果、栃木県北東部にある放牧場や採草地計13カ所で、3目、12科、13種、448個体の鳥類が記録された。全ての調査地でヒバリが第一優占種となり、続いてセッカ、ツバメが上位優占種となった。各調査地での種の在ム不在データをもとにクラスター分析を行ったところ、全13の鳥類群集は放牧草地(5)、採草地(7)と保留草地(1)の3つのグルー プに分けられ、草地利用形態が鳥類群集構造に大きく影響をもたらしていることが明らかになった。また、放牧草地と採草地との鳥類の種数や個体数の比較によって、両者の間に種数の有意な差は認められなかったが、個体数においては採草地のほうが有意に高かった(Wilcoxon検定、p<0.05)。また、上位優占種の相対密度の比較では、ヒバリとツバメについて有意な差は認められなかったが、セッカについては、採草地のほうが有意に高かった(Wilcoxon検定、p<0.05)。さらに、採草地のデータを刈り取り前と後に分けて比較したところ、ツバメは有意な違いは認められなかったが、刈り取り後、セッカは有意に減少し、ヒバリは有意に増加した(Tukey-Kramer検定、p<0.05)。鳥類(全13種)のハビタット利用状況をまとめると、草地で繁殖も採食もする草地スペシャリスト(ヒバリ、セッカなど5種)、採食などで草地を頻繁に利用するが、他にもハビタットを持つ草地ジェネラリスト(カワラヒワ、ハクセキレイなど5種)、また移動など何らかのために一時的、また一過性に草地を利用する草地ヴィジター(ヒヨドリなど3種)が挙げられる。また、草地スペシャリストは主に採草地を利用し、それ以外の種のハビタット利用については両草地において特に偏る傾向がみられなかった。様々な草地利用パターンをもつ鳥類を保全するには、放牧地と採草地など植生条件や撹乱頻度と強度が異なる多様な草地利用形態が必要とされる。また、セッカなど草地スペシャリストの繁殖地を確保するには、採草地のセット・アサイド制度の早期導入が望ましい。 コンタクトオーサー時坤 畜産草地研究所 〒329-2793 栃木県西那須野町千本松768 Tel: 0287-37-7805 E-mail: koon@naro.affrc.go.jp 05ニホンキジのさえずりによる個体識別 −ソナグラフを用いて−
>菊池 晴子
東京農工大学大学院 キジ(Phasianus colchicus )の行動はテレメトリの装着によって調査される例が多いが、それは大きなコストがかかる。一方で、本種の雄は、繁殖期の目立つさえずりによって比較的容易に個体の位置とテリトリーが知れるため、春季に行動観察が行われた例がある。しかしさえずりによって各個体を識別し、追跡や観察を行うためには、まず、対象とする音声における個体内の差異が、個体間の差異より小さいかどうかを統計的に明らかにした上で、さえずりが個体識別に有効かどうか検討する必要がある。本研究では野生のニホンキジ(P. c. versicolor)について、およそ1ヶ月内外のさえずりを録音し、音声解析機器を用いて声の物理的な構造を測定することによって個体内の変異および個体間の差異を検討した。録音は、1998年(平成10年)の4月5日から5月10日まで行われた。調査地は広島県安芸郡音戸町の農耕地で、調査対象面積は約0.6km2である。この地域は、海から130mくらいの範囲は海に向かって開いた小さい尾根と、緩やかな谷底が繰り返すが、それより奥は急峻な地形となり、アカマツ林や植林が優占する。谷底は主に水田に利用され、小尾根の斜面は主に常緑樹林、竹林、みかん畑、耕作放棄に由来したノイバラやクズのやぶとなっている。テリトリーを把握した16個体のうち、13個体、92さえずりが解析された。個体間および個体内変異の検討には、時間的要素(第1声はじめから第2声始めの時間)、音色を表すパワースペクトラム、音の高さをあらわす基本周波数の3つの項目を用いられた。個体内の変化は、さえずりの標本数が最も多い2個体で検討された。2個体の、時間的要素の変動係数はともに0.018で、パワースペクトラムにみる波形の変動は、ピークはもちろん、低音圧部分についてもかなり小さかった。同じ時間的要素について8個体77標本をSheffe法によって多重比較した結果、8個体のそれぞれの組み合わせにおいて81%の識別が可能であった。また、各個体のパワースペクトラムは一見して個体内の変動を超える差を有していた。13個体の第1声の基本周波数は、4つのグループに分かれた。以上の結果から、ニホンキジのさえずりは、単独で識別に十分という決定的な要素はないが、複数の要素を組み合わせて比較すれば十分に識別可能な差を有していると考えられた。 コンタクトオーサー菊池 晴子 東京農工大学大学院連合農学研究科 〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5737 E-mail: kikuneko@a7.shes.net 06カラスによるロウソクの持ち去り行動
樋口 広芳
東京大学
京都市の伏見稲荷大社では、カラスによるロウソクの持ち去りが観察されている。また、ロウソクに火がついている場合、ボヤ騒ぎを起こすこともある。伏見稲荷での聞き込みおよび野外調査から、この行動の実態を調べてみた。 樋口広芳 東京大学大学院農学生命科学研究科生物多様性科学研究室 〒113-8657文京区弥生1-1-1 Tel:03-5841-7541 E-mail:higuchi@es.a.u-tokyo.ac.jp 07青森県西目屋村集落周辺におけるニホンザルの食性の季節的変化
*1江成 広斗・2松野 葉月
1東京農工大学・2日本野鳥の会
江成広斗 東京農工大学大学院農学研究科 (連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林 Tel & Fax: 0287-47-1185 E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp 08青森県西目屋村におけるサルの追い上げについて
*1西埜 将世・2江成 広斗・3和田 一雄
1岩手大学・2東京農工大学・3山梨県環境科学研究所
これまで日本各地で行われてきたサル被害防除はほとんどサル駆除しか行われなかった。そして、駆除の効果判定が行われたことは一度も無かったといってよい。ここ10-15年来電柵、その他各種防除網、爆音機、犬などを利用した防除策はとられるようになってきたが、防除効果はそれほど目覚しいものではない。 西埜将世 岩手大学農学部 (連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林 Tel & Fax: 0287-47-1185 E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp 09石川県白山麓のニホンザルに対する住民意識
*1原田 正子・1丸山 直樹・2野崎 英吉
1 東京農工大学・ 2 石川県白山自然保護センター
現在、ニホンザル(Macaca fuscata)による農林業被害(以下、サル被害と記す)は日本各地で発生しており、石川県でも白山麓を中心に多発している。1970年頃から手取川上流域において群れ数、個体数ともに増加し始め、被害は年々手取川下流域へと拡大しているが、決定的な解決策はまだない。被害の減少とともにその種の存続を図るための長期的視点にたった野生動物保護管理計画の策定には、対象動物の生態調査や被害調査だけでなく、地域住民の対象動物や被害に対する意識の把握が必要である。そこで本研究では、白山麓手取川流域の鶴来町、河内村、鳥越村、吉野谷村、尾口村、白峰村(以下、白山麓農村部と記す)の住民にアンケートを行ない、ニホンザルやニホンザルによる農作物被害に対する認識や意識を明らかにし、これらがどのような要因を受けて形成されているのかを検討した。 原田 正子 現住所 東京都北区昭和町2-12-14 Tel:03-3800-4591 E-mail:harakko@kitanet.ne.jp 10秦嶺山系におけるキンシコウの社会構造とその機能
*1和田 一雄・2張 鵬・3福田 史夫
1山梨環境科学研究所・2西北大学・3共立薬科大学 周至キンシコウ自然保護区の西梁群(約91頭)のbandを調査期間のみ餌付けして個体識別して観察した。観察期間は2001年10-11月、2002年1月、3-4月、餌場は玉皇廟村の貢泥構に沿って設け、餌はダイコン、トウモロコシ、リンゴを用いた。bandは8 one male units からなり、8 males, 27 adult females, 13 young adult females, 4 three year-olds, 9 one year-olds, 15 babies であった。2002年1-2月は6 one male units に減少したが、3-4月には8 one male units に回復した。林内でのone male unit 間の交渉は極めて稀で、もっぱら餌場とその周辺で観察された。one male unit のメンバーが餌場に入る際かならずその大部分が来て一緒にであった。♂・♂間の交渉はなく、すべてunits 間で行われた。従って順位はunits 間で観察された。♂の名前で代表させると、黒頭、紅点、長毛、禿頭、井字頭、中指、断指、8字頭(第1位から8位まで)となる。林内ではone male unit 間で争いはなく、resting, grooming, huddling が観察され、aggressionは極めて稀であった。又、別のunitの♀が来て、restingその他に参加する事があった。2001年5月3日に91頭の群れを発見、その中に♂の黒頭、と♀の短尾を見たので今回観察しているbandが含まれていたし、8頭以上の♂をみていたので、これはbandとall-male group からなる west ridge herdであった. 新生児は3月23日から4月15日間に15頭出産したので、出産期である。従って、交尾期は10月から11月になるが、3-4月に頻繁にyoung adult に観察された。この交尾は社会的な繋がりを強化する機能を持つといえる。one male unit は社会的、生態的、繁殖上の機能を持つといえる。そして、キンシコウの社会はone male unit, band, all-male group を含む重層社会としてのherdからなる。 コンタクトオーサー和田一雄 山梨県環境科学研究所 (連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林 Tel & Fax: 0287-47-1185 E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp 11広域環境汚染から生物相を保全するための石川県海岸および浅海域生物相の種構成の分析
1寺西 亜希・1中田 友紀子・1氏家 理恵子・1,2笠原 里恵・*1横畑 泰志
1富山大学・2現, 州大学
重油流出事故のような広範囲に環境汚染をもたらす突発的な事故が発生した場合、生物相や生態系への被害を最小限に押さえるためには、あらかじめそれぞれの地域での平常時の自然環境の現状を把握し、対処法を確立しておかなければならない。その際、いわゆる貴重種や希少種の分布域が重点的に保全される場合が多いが、そうした選別的な対策だけではなく、生物相全体を視野に入れた保全策も必要と考えられる。 横畑泰志 富山大学教育学部環境生物学研究室 〒930-8555 富山市五福 3190 Tel:076-445-6376 E-mail:yokohata@edu.toyama-u.ac.jp 12ヤマザクラ果実の色および糖濃度の変化と発芽率の関係
*葛西 真輔・小池 伸介・古林 賢恒
東京農工大学
被食分散過程はいくつもの生活ステージによって構成される。種子散布システムの過程では、開花・結実のスケジュールにおいて可食部の栄養価、外果皮の色、果実の大きさなどが重要な要因となる。そこで、核果であるヤマザクラを対象に、開花からの日数を基準に果実の外果皮色、大きさ、糖濃度、発芽率のフェノロジーを明らかにした。 葛西真輔 東京農工大学森林生物保全学研究室 〒183-8509 府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5746 E-mail:shinsuke@mb.neweb.ne.jp 13富士山北部におけるヒメシジミの個体群構造と環境構造との関係
渡辺 通人
河口湖フィールドセンター
近年全国的に草原性蝶類の生息地の減少が顕著で、山梨県に生息するRDB種蝶類の約78%は草原性である。準絶滅危惧種に指定され草原性蝶類でもある本種は、神奈川県ではすでに絶滅してしまったといわれている(相模の蝶を語る会、2000)。富士山でも静岡県側の南部では、産地も限定され絶滅目前といわれているが(高橋・清、私信)、幸い山梨県側の富士山北部では生息地もかなりあり、まだ個体数の多い地点も見られる。そこで、本種の個体群構造とその生息環境の構造との関係を知ることによって、絶滅を未然に防ぐための方策を見つけたいと考え調査を行った。 渡邊通人 NPO富士自然保護研究所 〒401-0301 山梨県南都留郡河口湖町船津字胎内6603 河口湖フィールドセンター 自然共生研究室 TEL & FAX:0555-20-3510 E-Mail:Mich2530@aol.com 14神奈川県丹沢山地における暖温帯林上部のムササビ(Petaurista leucogenys)の生態
*谷 さやか・古林 賢恒
東京農工大学
ムササビは樹上生活に適応した動物で、森林生態系の保全を考える場合、重要な位置をしめる。しかし、夜行性ということもあり、研究は進んでいない。以下の項目について研究を進めた。 古林賢恒 東京農工大学 〒183-8509 府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5746 E-mail:kengof@cc.tuat.ac.jp 15島根県におけるイノシシの農作物被害と農家の意識
*1竹鼻 悦子 ・1神崎 伸夫・2小寺 祐二
1東京農工大学・2自然環境研究センター 島根県では現在イノシシが隠岐島と島根半島部を除く46市町村に生息し、農作物被害が発生している。その対策として狩猟者による個体数コントロール、防除柵の設置、追い払い等が行われている。これまで被害の実態については調査されてきたが、それが農業経営に与える影響については明らかにされていない。そこで、イノシシによる被害の実態、被害対策とその費用・労力、農業に対する展望を明らかにするために、イノシシの被害のある46市町村の農業委員を対象にアンケートを行った。アンケートは2001年12月に配布、2002年1〜3月に回収した。回収数508通、回収率64.0%、回答者の平均年齢は61.1±6.6歳であった。回答者の53.5%が現在イノシシによる被害を受けており、過去に被害を受けていた人を含めると76.0%が被害を経験していた。被害作物は「水稲」が最も多く(51.5%)、被害発生年代は「1980年代」、「1990年代」が多かった。被害対策については、被害経験者の81.1%が「防除柵」による対策を実施しており、その効果を認めていた。しかし、被害対策にかかる「費用」と「労力」に負担を感じている農家が多いことから(費用:85.3%、労力:90.5%)、農家の高齢化や農産物の収益性の悪化により今後対策をとり続けることが困難になる可能性が考えられる。今後の農業経営の規模については「現状維持」が最も多かったが(73.5%)、生産よりも農地の資産保持のために農業を継続する農家が多かった。イノシシの被害の有無と今後の農業経営規模についての農家の意識には差が見られなかった。また、農業維持に必要な条件についても「担い手の育成」(61.7%)や「農産物の価格上昇」(48.5%)が「鳥獣被害対策」(31.0%)よりも多く選択されていた。以上のことから、島根県の農業は労働力の流出や厳しい経営状況により衰退が進行しており、イノシシによる被害はそれに追い打ちをかけているものの農業衰退の一義的要因ではないと考えられる。 コンタクトオーサー竹鼻悦子 東京農工大学農学部野生動物保護学研究室 〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5737 E-mail:takehana@cc.tuat.ac.jp 16島根県石見地方におけるニホンイノシシのミミズ利用量の季節的変化
*1皆川 晶子・1神崎 伸夫・2石川 尚人・3小寺 祐二
1東京農工大学・2筑波大学・3自然環境研究センタ− 島根県石見地方では1994年以来、ニホンイノシシの胃内容物を用いた食物項目分析が行われている(自然環境研究センター, 1995-2001)。その結果、本種は春に単子葉草本、タケノコ、夏に双子葉草本、秋冬に堅果類、根・塊茎類を主に採食していることが明らかとなっている。しかし、それらの分析はポイントフレーム法で行われており、消化され易い無脊椎動物が過小評価されている可能性がある。他地域個体群においてほぼ年間を通して利用されているミミズ(Founier-c, 1995)はほとんど出現していない。そこで本研究では、胃内容物中で消化されないミミズの剛毛を数えることにより、本種のミミズ利用量の季節的変化を調べた。サンプルとして、1998年4月から1999年3月にかけて島根県石見地方で捕獲されたイノシシ265個体の胃内容物を使用した。同一サンプルをポイントフレーム法で分析した場合、ミミズの出現頻度は10%以下であったのに対し(自然環境研究センタ−、1998)、本研究では33〜66.7%となった。イノシシの胃内容物中の平均剛毛密度と出現頻度は同様の季節的変化を示し、7月が最も高く(36.7±9.9本/ml、66.5%)ついで9月(22.2±8.1本/ml、55.6%)となった。また、7−10月の平均剛毛密度は11〜3月までに比べ有意に高かった(P<0.05)。次にミミズの利用が多かった7−9月にいて、ミミズ利用個体とそれ以外の個体における胃内容物の乾物中の粗蛋白質含有率と粗脂肪含有率を比較した。その結果、前者と後者の平均粗蛋白質含有率はそれぞれ15.5%と15.4%、平均粗脂肪含有率はそれぞれ4.5%と3.9%であり、有意差はみられなかった(U-test,P>0.05)。以上のことから、イノシシは特に夏期にミミズを多く利用すること、ミミズはイノシシの栄養状態に影響する程重要な栄養源ではないことが考えられる。 コンタクトオーサー皆川晶子 東京農工大学農学部野生動物保護学研究室 〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5737 E-mail:minaeri@hotmail.com 17ニホンテンの密度指標3手法試案 −INTGEP, ビームライト, 糞密度−
1須田 知樹・2倉島 治・3小金澤 正昭・3金子 健太郎
1東京農工大学・2東京大学・3宇都宮大学 テン属の研究は欧米を中心として生息地選択、食性、行動圏面積などが主になされているが、個体群生態学的研究は少ない。特に、そのベースとなるべきセンサス方法は全く開発されていない。視認しにくいこと、テリトリアルであること、フィールドサインを発見しづらいことなどがその原因と考えられる。発表者らは、昨年、一昨年の本学会発表で、ニホンジカによる生息地攪乱が、ニホンテンの食性へも影響することを発表した。この影響が、ニホンテンの個体群密度へも及ぶのかを解明するためには、ニホンテンの密度指標手法を開発する必要がある。そこで本研究では、INTGEP法、ビームライトセンサス、糞密度法の3手法を比較した。調査地は、栃木県奥日光市道1002号線(踏査距離約10km)沿いでである。INTGEP法に用いたデータは、2002年2月に行った市道から幅500mの踏査による足跡調査と2001年2月に行った24時間連続ラジオテレメトリーである。ビームライトセンサスは2002年5月から8月にかけて、市道から行われた。糞は、市道の踏査により2000年4月から6月、9月から12月、2001年4月から6月に回収された。得られたデータを市道前半約5km(小田代側)と市道後半(千手側)に分けて各手法を比較したところ、INTGEP法とビームライトセンサスは小田代側で密度が低く千手側で高いという類似した結果が得られたが、糞密度は小田代側で高く千手側で低くなった。糞密度法がもっとも簡便に行える方法であるが、今回の結果から、密度指標として用いることが困難である可能性が示された。一方、INTGEP法、ビームライト法は有効である可能性があるが、INTGEP法は足跡の残る積雪期にしか実施できないため、周年を通してニホンテンの行動圏が一定である必要がある。また、ニホンテンは薄明薄暮に行動量が増すため、ビームライトセンサスを行う際には、観察時間帯を考慮する必要がある。ニホンテンの密度指標の確立には、今後、自動撮影装置やDNAをマーカーとした記号放逐法などいくつかの手法を試験、開発する必要がある。 コンタクトオーサー須田知樹 東京農工大学農学部 〒183-8509 府中市幸町3-5-8 東京農工大学農学部野生動物保護学研究室 Tel:042-367-5737 E-mail:sudak@topaz.ocn.ne.jp 18仔連れクマによるクマ剥ぎ例
1八神 徳彦・*2西 真澄美・3野崎 英吉
1石川県林業試験場・2東京農工大学・3石川県白山自然保護センター
石川県では、県南部を中心にクマ剥ぎが拡大・激化している。この原因は明らかになっていないが、クマ剥ぎ激害地では親子のクマが捕獲されたり、目撃されたり、また親子の痕跡が見られることがたびたびある。本報告では、加害クマが仔連れのクマであると確認できた一例を報告する。 西 真澄美 東京農工大学大学院農学研究科 〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5737 E-mail:interruptedgirl22@hotmail.com 19ヤマザクラ果実に対するニホンツキノワグマの消化過程での種子の体内滞留時間
*1小池 伸介・1葛西 真輔・1古林 賢恒・2小松 武志
1東京農工大・2阿仁町ツキノワグマ研究所
ツキノワグマが森林で果たす役割を明らかにする一環として行なったものである。6、7月のツキノワグマの糞中からヤマザクラの種子が大量に検出され、発芽率が高いこと(小池ら2002)から、種子散布にかかわる役割を明らかにするために種子の健全率と体内に滞留する時間を調べた。ツキノワグマは直接観察が困難なことから、種子散布範囲を推定する方法として採食した果実の体内滞留時間と対象果実の採食時期におけるツキノワグマの行動から推定する方法、糞から出現した種子の幼植物のDNAと符合する母樹の位置との関係から散布範囲を推定する方法が考えられる。ここでは体内滞留時間の情報を得ることとした。実験を行なうにあたり阿仁町熊牧場の職員の方々には便宜をはかっていただいた。 小池伸介 東京農工大学 〒183-8509 府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5746 E-mail:s-koike@cc.tuat.ac.jp 20富士山周辺地域におけるツキノワグマの分布とロードキル問題
*1奥村 忠誠・1瀧井 暁子・2小池 伸介・1羽澄 俊裕
1(株)野生動物保護管理事務所・2東京農工大学
分布域の分断孤立による島嶼化は、野生生物個体群を物理的に小規模集団にしてしまうことから、保全生物学的な観点からは、野生生物を絶滅に至らしめる深刻な問題としてとらえられ、その改善が求められている。この点は新生物多様性国家戦略の自然再生事業の一つの目標として掲げられている。 奥村忠誠 (株)野生動物保護管理事務所 川崎市多摩区布田5−8 Tel:044-945-3012 E-mail:okumura@wmo.co.jp 21日光・利根シカ地域個体群の遺伝学的内部構造‐尾瀬のシカはどこから来たか?
*小金澤 正昭・福井 えみ子
宇都宮大学
近年、ニホンジカが栃木、群馬、福島3県にまたがって分布する日光・利根地域個体群の北端に位置する尾瀬に出現し、社会的に大きな問題となっている。尾瀬のシカの保護管理にあたっては、シカがどこから移動してくるのか、その越冬地の解明は極めて重要である。しかし、生息数が少なく、捕獲は極めて困難で、テレメトリ法による解析は進んでいない。そこで、演者らは、ミトコンドリアDNAのD-loop領域の遺伝学的分析を行い、尾瀬のシカの越冬地解明を試み、あわせて当地域個体群の遺伝学的内部構造の解析を行った。 小金澤正昭 宇都宮大学農学部附属演習林 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 Tel:0287-47-1185 E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp 22木本植物の小枝に対するニホンジカの採食形態
*大久保 朝高・古林 賢恒
東京農工大
シカの採食形態について観察していると、柔組織をむしり取るようにして採食しているのが普通である。上下に切歯がないためこのような採食形態になる。森林地帯における環境収容力を明らかする際の基礎デ−タとして、採食植物種、採食部位についてのデ−タは不可欠である。そこで、木本植物の小枝を対象に成長期と成長休止期で採食部位の年齢・衝撃仕事量が異なるかどうか、成長休止期に栄養価の高い植物を給餌した場合に採食部位の年齢・衝撃仕事量が異なるかどうかを調査した。調査は、2001年8月13日〜10月25日(成長期)、2001年12月20日〜2002年1月26日(成長休止期)である。調査地は神奈川県丹沢山地の一隅で、生存限界密度の条件下でシカがよく出現する場所において行った。木本植物の小枝(長さ2m程度)を持ち込み、自然に近い状態にセットし、シカに採食させ、採食形態(採食部位・採食部位の年齢・採食部位のサイズ)について測定した。また、シャルビ−型試験機を用い、採食部位の剪断面積と衝撃仕事量との関係を求めた。成長休止期の採食試験に当たっては、アオキを代謝体重あたり91.4g/日与える場合と与えない場合を設定し、成長期と同じ方法で採食試験を行った。 古林賢恒 東京農工大学農学部 〒183-8509 府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5746 E-mail:kengof@cc.tuat.ac.jp 23森林所有者の獣害防止資材に対する意識調査 −特にコストに関して−
丸山 哲也
栃木県県民の森管理事務所
植林木の獣害防止資材としては、防鹿柵のほかに忌避剤や、苗木を1本ずつ覆う資材(以下、ツリーシェルターと記述)、成木の幹巻き資材(以下、樹幹帯と記述)があり、一部は製品化されているが、実用試験を実施中のものも多数存在する。一方、木材価格の低迷により、林業経営を取り巻く環境は年々厳しくなってきており、獣害防止にかけられるコストが低くなってきているのは確実である。このため、いくら獣害防止に効果のある資材でも、高価なものでは受け入れてもらうことはできない。 丸山哲也 栃木県県民の森管理事務所 矢板市長井2927 Tel:0287-43-0479 E-mail:maruyamat02@pref.tochigi.jp 24山西省黄土高原の自然回復:退耕還林還草事業視察報告
丸山 直樹
東京農工大学 退耕還林還草事業は、農耕牧畜による長年の自然荒廃の進行を防止し、人工植栽による植生回復を目的にした自然復元事業である。中国での緑化事業の歴史は古いが、今回の事業の直接の動機は、1998年の長江、松花江の大洪水とともに近年ますます激甚となっている黄砂である。事業地域は、松花江上流域の吉林省白頭山一帯、長江と黄河の上・中流域のモンゴル平原、黄土高原の6省3自治区にまたがる広大な地域で行われている。吉林省での事業については譚(2001)の報告に詳しいが、これ以外の地域についての状況は知られていない。筆者は、2002年7月、山西省農業科学院の招きで事業地視察の機会を得た。わずか4日間の日程ゆえに情報は限られているが、中国の自然保護事情を知る得難い経験であったので報告することにした。この事業の統括行政は、国家林業局−省林業庁−省退耕還林局/林業局−県・市退耕還林還草指導組−県・市退耕還林還草計画委員会/林業局−村農民、となっている。実際の作業は農民による義務的請負によって行われ、県の合否判定委員会によって査定された後、農民には報酬が支払われる。隰県での施業方法は「水平溝造成方式」ある。傾斜角15゜以上の黄土堆積斜面が対象になる。耕作が許されるのはこの傾斜角以下の緩い斜面である。水平溝の役割は、降水を溜める保水・水利である。水平溝は夏に作られ、秋に内部に植栽される。谷底では、早成長・高木性のヤナギ、ポプラ、斜面では高木と灌木が植栽される。自然種が優先的に植栽される。果樹は20%以下に抑制されている。土壌の堆積が僅かな岩礫性の急傾斜地では岩塊を燕巣状に積み上げ、内部に土壌を入れて植栽桝を作り、桝毎に1本の苗木を植栽する。退耕還林還草事業の地域での実施手順は、(1)指導組による事業候補地選定(2)指導組による計画策定(3)農民による作業(4)合否判定委員会による完工検査(5)検査合格の場合、農民は金・食糧取得。不合格の場合はやり直し。 コンタクトオーサー丸山直樹 東京農工大学農学部地域生態システム学科野生動物保護学研究室 〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8 Tel:0423-67-5738 E-mail:maru@cc.tuat.ac.jp 25島根県における新規参入狩猟者と県外からの狩猟者の意識
1*上田 剛平・1神崎 伸夫・2小寺 祐二
1東京農工大学・2自然環境研究センター
日本の狩猟者は、1970年の約53万人をピークに減少を続けており高齢化も進行している。これは新規に参入する狩猟者が少ないためである。現在、日本各地で大型哺乳類の分布拡大が見られ、農林業被害も急増している。それに対し特定鳥獣保護管理計画を策定し、個体数コントロールを強化する動きが地方自治体に見られる。しかし狩猟者の減少により、駆除隊を編成できないケースも生じている。島根県の狩猟者数も1976年の約7200人をピークに減少し続けてきたが、1990年代以降は狩猟免許取得者の増加により約3300人で安定している。そこで新規参入する狩猟者の意識と背景を明らかにするため、2001年7月より狩猟免許試験受験者全員に対してアンケートを行った。配布数は371通、回収数は330通、回収率は約90%であった。また島根県は今年度イノシシの特定鳥獣保護管理計画を策定することで猟期を延長し、捕獲圧を高めようとしている。通常の猟期外には県外からの狩猟者の増加が予想される。それにより捕獲圧の高まりが期待できるかについて検討するために、2001年10月より県外の狩猟者を対象に狩猟実態と意識についてのアンケートを行った。アンケートは狩猟者登録証の発送時に同封し、県に返送してもらった。発送数は320通、回収数は90通、回収率は約30%であった。 上田剛平 東京農工大学農学研究科野生動物保護学研究室 〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8 Tel:042-367-5757 E-mail: 26生命共同体思想としての『新今西進化論』
*水幡 正蔵
在野の研究者
今西理論は“生物の世界”を種個体、種社会、生物全体社会の三重構造でとらえる。これはエコロジ−世界観として画期的なものである。なぜなら人間社会をヒト種社会として生物全体社会の一員に相対化し、「地球は人間のもの」という世界観を超えているからである。そして今西は自らのこの世界観がよって立つ進化論を求めて、いわゆる“今西進化論”を提唱した。共時的な世界観を思想に高めるためには、今西の世界観に対応した通時的な進化論が必要であったわけである。 水幡正蔵 在野の研究者 (連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林 Tel & Fax: 0287-47-1185 E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp |