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大会要旨集 口頭発表


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01

東京都多摩丘陵地帯におけるオオタカの食性

*1千葉 浩克・1古林 賢恒・2高橋 久子
1東京農工大学・2東京里山の会

 生息環境の攪乱が激しい都市周辺部の丘陵地帯に生息する個体を対象に食性調査を行った。調査地は、東京都稲城市にある丘陵地帯で、標高30mから130mに位置し、調査地の中央を東西に川が流れ、川沿いおよび北東部の平野部は主に住宅地と畑・水田、南側の丘陵地にはクヌギ・コナラの二次林、スギ・ヒノキ林、竹林、ゴルフ場、谷戸田、休耕田がモザイク状に分布する。
 鳥相と個体数を明らかにするために、オオタカの行動圏内に2ル−トを設置し、ライントランセクト調査を行った。食性調査は、オオタカの行動圏内に踏査ル−トを設定し、食痕を発見する方法によった。その際、解体した環境を林内・林縁・林外に大別し記録した。調査は、1996年10月から2002年1月にかけて行った。
 調査地は鳥相に季節的変化の少ない地域であること、(上位5種を挙げると夏期はスズメ・カラス・ヒヨドリ・シジュウガラ・ムクドリ、冬期は、スズメ・カラス・ヒヨドリ・シジュウガラ・カルガモである)42種類の鳥類が捕食されており、季節にかかわらず中型鳥類を選択的に捕食し、なかでも夏期にはドバト・キジバト・ヒヨドリ、冬期にはドバト・キジバト・コジュケイ・ヒヨドリを多く捕食していた。また、解体場所として林内を選択的に利用し、裸地空間と見通し率の低いことが必要条件になっていることがわかった。
 食痕が多いドバト・キジバト・ヒヨドリ・カラスは林外などの開放的空間にいる時間が長いことと関係があるのかもしれない。コジュケイの食痕が冬期に増加するのは落葉により上空からの林内の見通しがよくなるためと考えられる。
 育雛期の食痕が少ないが、食痕調査の限界を感じる。育雛期には小鳥を捕食するという報告があるが、オオタカの食性調査には、食痕調査にくわえて、直接観察やVTR観察が必要と考える。また、ドバトの捕食率が高いことがオオタカの生活にどのような意味を持つかを考えるとき、一つにはドバトを捕食することにより起こるであろう生物濃縮や重金属汚染の問題についての研究が必要になる。

コンタクトオーサー
古林賢恒 東京農工大学農学部
〒183-8509 府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5746
E-mail:kengof@cc.tuat.ac.jp

02

栃木県那須野ケ原におけるオオタカの営巣環境

*1堀江 玲子・2遠藤 孝一・2野中 純・2船津丸 弘樹・1小金澤 正昭
1宇都宮大学・2オオタカ保護基金/日本野鳥の会栃木県支部

 オオタカの保護には、生息環境の保全が極めて重要であるが、それには営巣環境と採食環境の両面からアプローチする必要がある。
 オオタカは森林性の猛禽類であり、日本ではアカマツ、スギ、カラマツなどの壮齢林に営巣することがよく知られている。しかし、多くの報告は営巣環境の記載にとどまり、営巣環境とランダムプロットを比較して、営巣環境の選択性について明らかにしたものはほとんどない。
 そこで、今回、栃木県那須野ヶ原において、オオタカの営巣林とランダムプロット林分の植生を比較し、オオタカが営巣する森林環境の特性を明らかにしたので報告する。
 2000年と2001年にオオタカの営巣が確認された31か所の営巣林と営巣林を含む調査地域全域からランダムに選んだ50か所の林分において、同様の植生調査をおこなった。調査は営巣木を中心に半径11.28m(面積0.04ha)の円形プロットを設定し、プロット内の低木以上の立木について胸高直径と樹高、樹種を測定した。胸高直径は5cmごとのクラスに分け、20cm以下と35cmより大きい立木はそれぞれひとまとめにした。樹高は15m以下、15〜20m、20mより高い立木の3つのクラスに分けた。樹種はアカマツ、広葉樹、常緑針葉樹に分けた。また、営巣木はすべて高木であったので、各ランダムプロット内から、ランダムに高木1本選び、ランダム木とした。
営巣木とランダム木の樹種、胸高直径、樹高について比較したところそれぞれ差が見られた(χ2-test、P<0.05)。ボンフェローニの信頼区間より樹種はアカマツを選択し広葉樹を回避、胸高直径は30cmより大きい立木を選択し20cm以下を回避、樹高は15〜20mを選択し15m以下を回避するという結果が得られた。次に営巣林とランダムプロット林分について比較したところ、各林分におけるアカマツの割合と胸高直径が30cmより大きい立木の割合にそれぞれ差がみられた(χ2-test、P<0.05)。ボンフェローニの信頼区間より、アカマツの割合が75%より高い林分を選択し、50%以下の林分を回避する結果が得られた。胸高直径では30cmより大きい立木が10パーセント未満の林分を回避する結果が得られた。

コンタクトオーサー
堀江玲子 宇都宮大学大学院農学研究科
〒321-8505 宇都宮市峰350 宇都宮大学農学部森林科学科野生鳥獣管理学研究室
Tel:028-649-5548
E-mai:ma014515@cc.utsunomiya-u.ac.jp

03

河川中流域における営巣場所造成によるコアジサシの保護

遠藤 孝一・内田 裕之・千野 繁
日本野鳥の会栃木県支部

 コアジサシ(Sterna albifrons)は、日本には夏鳥として渡来し、本州以南の水辺で集団で繁殖する。国内での生息数は、10,000-20,000羽程度と考えられており、レッドデータブックで「絶滅危惧「類」、種の保存法で「国際希少種」に指定されている。 栃木県宇都宮市内の鬼怒川では、過去において10-20つがいのコアジサシのコロニーが確認されていたが、近年はほとんど繁殖がみられなくなっていた。ところが、河川公園内に営巣に適した環境を造成して誘致を試みた結果、1997年、1998年と2年連続して数十つがいが営巣したので、ここに報告する。

  1.  営巣場所の造成および管理
     宇都宮市では、市政100周年の記念事業の一環として、宇都宮市内の鬼怒川河川敷に、「鬼怒ふれあいビーチ」を1996年に開園した。これは、本流から低水敷きに水を引き込み、700mに渡って幅100mの止水域を造成したもので、水遊びや水泳のできる「ビーチゾーン」とカヌーやボートができる「多目的ゾーン」の二つに分けられる。
     営巣場所は、「多目的ゾーン」内に造成した。この場所は、砂礫からなる面積1300m2の島であり、最も近い岸辺から25m離れている。コアジサシの繁殖期間中は、島の周囲にブイを設置し、その範囲内への人の立ち入りを制限した。
     また、植生の繁茂を抑制するためと普及啓発のために、1996年および1997年の秋に、人力で除草作業を行った。さらに1998年3月には、重機2台による砂礫の撹拌作業を行った。営巣場所の造成および管理の大部分は、公園造成および管理の一部として宇都宮市が実施した。
  2.  繁殖状況
    1997年: 1回目の繁殖では、36巣で合計82卵を確認した。しかし6月20日、台風による増水で島は全面浸水し、コロニーは全滅した。その後、2回目の繁殖が開始され、20巣で合計49卵が産み込まれ、14羽以上が巣立った。
    1998年:96巣で238卵の卵が産み込まれ、90羽以上が巣立った。
     国内において営巣に適した環境を人工的に造成し、コアジサシの誘致を試みた例は数例あるが、成功例は少ない。したがって今回の成功は、貴重な事例と考えられる。成功した理由としては、営巣場所が水面によって岸と隔離されているため地上性の捕食者や人が容易に接近できなかった、多数の個体が集まって繁殖しているため捕食者に対する追い払い効果が高かった、重機による撹拌などにより営巣場所の植生の繁茂を抑制できた、などが考えられる。
コンタクトオーサー
遠藤孝一 日本野鳥の会栃木県支部
〒320-0051 栃木県宇都宮市上戸祭町2910-13
TEL:028-621-1918 FAX:028-621-1924
Email:k-endo@ucatv.ne.jp

04

草地利用形態がもたらす鳥類への影響

時 坤・井村 治
畜産草地研究所

 温帯モンスーン気候域に位置する日本では、自然草地はまれで、火入れ、放牧、採草など人為的撹乱によって、草地が成立している。これらの人工草地や二次草地は、畜産や有機肥料などの目的で維持されてきたが、長期に渡って様々な生き物の重要な生息地ともなっている。しかし、近年における畜産業の衰退や農業の近代化に伴って草地が急速に減りつつあり、多くの草原性生物種の存続が脅かされている。演者らは、草原性鳥類を対象に、人工草地における放牧と採草がどのように鳥類群集の構造や種のハビタット利用に影響をもたらすかについて研究を行った。その結果、栃木県北東部にある放牧場や採草地計13カ所で、3目、12科、13種、448個体の鳥類が記録された。全ての調査地でヒバリが第一優占種となり、続いてセッカ、ツバメが上位優占種となった。各調査地での種の在ム不在データをもとにクラスター分析を行ったところ、全13の鳥類群集は放牧草地(5)、採草地(7)と保留草地(1)の3つのグルー プに分けられ、草地利用形態が鳥類群集構造に大きく影響をもたらしていることが明らかになった。また、放牧草地と採草地との鳥類の種数や個体数の比較によって、両者の間に種数の有意な差は認められなかったが、個体数においては採草地のほうが有意に高かった(Wilcoxon検定、p<0.05)。また、上位優占種の相対密度の比較では、ヒバリとツバメについて有意な差は認められなかったが、セッカについては、採草地のほうが有意に高かった(Wilcoxon検定、p<0.05)。さらに、採草地のデータを刈り取り前と後に分けて比較したところ、ツバメは有意な違いは認められなかったが、刈り取り後、セッカは有意に減少し、ヒバリは有意に増加した(Tukey-Kramer検定、p<0.05)。鳥類(全13種)のハビタット利用状況をまとめると、草地で繁殖も採食もする草地スペシャリスト(ヒバリ、セッカなど5種)、採食などで草地を頻繁に利用するが、他にもハビタットを持つ草地ジェネラリスト(カワラヒワ、ハクセキレイなど5種)、また移動など何らかのために一時的、また一過性に草地を利用する草地ヴィジター(ヒヨドリなど3種)が挙げられる。また、草地スペシャリストは主に採草地を利用し、それ以外の種のハビタット利用については両草地において特に偏る傾向がみられなかった。様々な草地利用パターンをもつ鳥類を保全するには、放牧地と採草地など植生条件や撹乱頻度と強度が異なる多様な草地利用形態が必要とされる。また、セッカなど草地スペシャリストの繁殖地を確保するには、採草地のセット・アサイド制度の早期導入が望ましい。

コンタクトオーサー
時坤 畜産草地研究所
〒329-2793  栃木県西那須野町千本松768
Tel: 0287-37-7805
E-mail: koon@naro.affrc.go.jp

05

ニホンキジのさえずりによる個体識別 −ソナグラフを用いて−

>菊池 晴子
東京農工大学大学院

 キジ(Phasianus colchicus )の行動はテレメトリの装着によって調査される例が多いが、それは大きなコストがかかる。一方で、本種の雄は、繁殖期の目立つさえずりによって比較的容易に個体の位置とテリトリーが知れるため、春季に行動観察が行われた例がある。しかしさえずりによって各個体を識別し、追跡や観察を行うためには、まず、対象とする音声における個体内の差異が、個体間の差異より小さいかどうかを統計的に明らかにした上で、さえずりが個体識別に有効かどうか検討する必要がある。本研究では野生のニホンキジ(P. c. versicolor)について、およそ1ヶ月内外のさえずりを録音し、音声解析機器を用いて声の物理的な構造を測定することによって個体内の変異および個体間の差異を検討した。録音は、1998年(平成10年)の4月5日から5月10日まで行われた。調査地は広島県安芸郡音戸町の農耕地で、調査対象面積は約0.6km2である。この地域は、海から130mくらいの範囲は海に向かって開いた小さい尾根と、緩やかな谷底が繰り返すが、それより奥は急峻な地形となり、アカマツ林や植林が優占する。谷底は主に水田に利用され、小尾根の斜面は主に常緑樹林、竹林、みかん畑、耕作放棄に由来したノイバラやクズのやぶとなっている。テリトリーを把握した16個体のうち、13個体、92さえずりが解析された。個体間および個体内変異の検討には、時間的要素(第1声はじめから第2声始めの時間)、音色を表すパワースペクトラム、音の高さをあらわす基本周波数の3つの項目を用いられた。個体内の変化は、さえずりの標本数が最も多い2個体で検討された。2個体の、時間的要素の変動係数はともに0.018で、パワースペクトラムにみる波形の変動は、ピークはもちろん、低音圧部分についてもかなり小さかった。同じ時間的要素について8個体77標本をSheffe法によって多重比較した結果、8個体のそれぞれの組み合わせにおいて81%の識別が可能であった。また、各個体のパワースペクトラムは一見して個体内の変動を超える差を有していた。13個体の第1声の基本周波数は、4つのグループに分かれた。以上の結果から、ニホンキジのさえずりは、単独で識別に十分という決定的な要素はないが、複数の要素を組み合わせて比較すれば十分に識別可能な差を有していると考えられた。

コンタクトオーサー
菊池 晴子 東京農工大学大学院連合農学研究科
〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5737
E-mail: kikuneko@a7.shes.net

06

カラスによるロウソクの持ち去り行動

樋口 広芳
東京大学

 京都市の伏見稲荷大社では、カラスによるロウソクの持ち去りが観察されている。また、ロウソクに火がついている場合、ボヤ騒ぎを起こすこともある。伏見稲荷での聞き込みおよび野外調査から、この行動の実態を調べてみた。
 伏見稲荷では、参拝客が参道沿いにあるロウソク立てにロウソクを立ててお参りする習慣がある。ロウソク立ては参道沿いのあちこちに設置されており、多い日には何千本ものロウソクが立てられることがある。稲荷の森林にすむハシブトガラスは、そうしたロウソクをくちばしでくわえとり、持ち去る。持ち去ったロウソクは、林床の落ち葉の間などに隠す。隠したロウソクは、少しずつかじりとって食べる。ロウソクには油脂分がふくまれているので、食べるのではないかと考えられる。ロウソクが持ち去られるのは、ロウソク立てのある場所から50〜100mくらいの範囲である。
 持ち去ったロウソクに火がついていたり、あるいは火そのものが消えていても火種が残っていると、火が落ち葉などに燃え移り、火事を起こすことになる。この稲荷で使われるロウソクの多くは、和ロウソク、あるいはそれに由来するもので、芯が太く、つけた火が消えにくい。そこで、カラスが林にもち去ったあとも、ロウソクに火が残っていることがあるのではないかと思われる。1999年4月から2002年3月までの間に、合計6件、カラスによるのではないかと思われるボヤ騒ぎが起きている(伏見稲荷からの私信)。
 カラスによるこのロウソクの持ち去り行動は、石鹸の持ち去り行動(樋口ほか2002年3月。ヒトと動物の関係学会大会で発表)に類似している。どちらも貯食行動の1種ではないかと考えられる。ロウソクの持ち去りを防ぐためには、1)ロウソク立ての前に針金などを張る、2)ロウソクに忌避剤を塗る、3)ロウソクを通常の洋ロウソクに変える、などの方法がある。1)と2)は現在、一部の場所で試みられている。どちらもそれなりに効果があるらしいが、設置方法や効果の持続性などに問題があるように思われる。洋ロウソクに変えるのは、野外では火が簡単に消えてしまうなどの理由から、好まれないようだ。
 野外にロウソクを立てる習慣は、京都市内のほかの場所、あるいは京都以外の地域にもある。そうしたところでカラスによるロウソクの持ち去り行動があるのか、またそれによるボヤ騒ぎなどが発生しているのかどうか、現在、実態を調査中である。

コンタクトオーサー
樋口広芳 東京大学大学院農学生命科学研究科生物多様性科学研究室
〒113-8657文京区弥生1-1-1
Tel:03-5841-7541
E-mail:higuchi@es.a.u-tokyo.ac.jp

07

青森県西目屋村集落周辺におけるニホンザルの食性の季節的変化

*1江成 広斗・2松野 葉月

1東京農工大学・2日本野鳥の会
  1. はじめに

     白神山地北東部に位置する青森県西目屋村はリンゴ栽培を基幹産業としているが、1990年頃から猿害が発生し、零細農家の多いこの地域では深刻な問題となっている。そこで、効果的な猿害対策を検討していくために、まずこの地域に生息するニホンザルの生態を解明する必要性がある。本研究は生態調査の一環として、当地域の集落周辺に生息するニホンザルの周年にわたる食性を明らかにすることを目的とした。

  2. 調査地域

     調査地域は西目屋村北東部の集落が集中している東西7km南北6kmの範囲である。この地域は冷温帯湿潤気候に属し、冬の積雪は2mを越える豪雪地帯である。

  3. 方法

    食性調査は、糞分析、採食行動の直接観察、積雪期の食痕調査の3種類の方法によって行なった。これらの調査は、1999年12月〜2002年5月にかけて行なった。

  4. 結果・考察

     糞分析から算出した食物項目の出現頻度(%)をクラスター分析した結果から、12月〜1月(初冬期)、2月〜3月(晩冬期)、4月(春期)、5月〜10月(夏・秋期)、11月(晩秋期)の5つに分類された。初冬期は樹皮・冬芽・果実などが80%以上の高い糞内出現頻度を示した。また、ヤマグワ・くずリンゴなどの採食が観察された。このことから初冬期は、ヤマグワなどの樹皮・冬芽を中心に採食し、さらに果実を付加した食性が考えられる。晩冬期には果実の糞内出現頻度が急減した。また、ヤマグワの樹皮・冬芽に最多の食痕が確認された。これらから、晩冬期はヤマグワを軸とした樹皮・冬芽を主食としていると考えられる。春期には樹皮・冬芽の糞内出現頻度が減少し、双子葉植物の葉が増加した。落葉樹の若葉の採食も多く観察された。よって、春期が積雪期から無積雪期への食性の移行期間と考えられる。夏・秋期になると果実の糞内出現頻度がさらに増加し、昆虫も高い値を示した。また様々な草本・堅果類の採食も確認された。これらに加えて、夏・秋期に数多く採食が観察された農作物は、より安定した餌食物供給量を維持するために重要であると考えられる。晩秋期には双子葉植物の葉・昆虫の糞内出現頻度が減少したが果実は増加した。またくずリンゴの採食が頻繁に観察された。晩秋期は、人影が少なくサルの餌場と化したリンゴ園を利用することにより、越冬に必要な餌食物を補充しようとしていることが考えられる。

コンタクトオーサー
江成広斗 東京農工大学大学院農学研究科
(連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局
 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林
  Tel & Fax: 0287-47-1185
  E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp

08

青森県西目屋村におけるサルの追い上げについて

*1西埜 将世・2江成 広斗・3和田 一雄
1岩手大学・2東京農工大学・3山梨県環境科学研究所

 これまで日本各地で行われてきたサル被害防除はほとんどサル駆除しか行われなかった。そして、駆除の効果判定が行われたことは一度も無かったといってよい。ここ10-15年来電柵、その他各種防除網、爆音機、犬などを利用した防除策はとられるようになってきたが、防除効果はそれほど目覚しいものではない。
  青森県西目屋村は白神山地の麓にある人口約1800人ほどの典型的な過疎・高齢化の村である。換金作物はリンゴだが、山間の狭い傾斜地で、林に囲まれ、孤立したリンゴ園が多い。村の林の70%以上は国有林で、1960-70年代の大面積伐採・杉造林の影響で、野生動物の生息環境は必ずしも良くない。
 このような条件の中で、十数年前からリンゴ園の猿害が激化して、村は花火、空気銃、爆音機、七面鳥などを利用した防除策に補助して来た。さらに、1997年から中山間地域の補助事業や県・村の独自の事業で冬期も放置できる堅固な電柵を設置し始めた。2002年でこの事業は一応区切りがつけられ、電柵設置希望者に行き渡り、ある程度被害を防除できるめどがついた。
 過疎の村では電柵の材料の支給を受けて、自分で設置できない、あるいはいつ園経営を止めるかわからないなどの理由から電柵が張られない園が各地に点在する。また電柵の維持は農家各戸が行うのだが、それが困難な高齢者が多い。特に冬期の樹皮・芽食いは秋のリンゴ被害以上の打撃を与えることが知られている。この村では、これまでサル駆除はごくわずか年間1-2頭しか行われなかった。ハンターがサルを撃つことを嫌ったからである。
 このような状況で村はサルの追い上げをボランティアに頼って行うことにし、2002年8月20日から11月22日まで行うことにした。現在進行中の計画である。この目的は上に述べた弱点を補い、若手の労働力を農作業に提供し、被害その他の厳しい現状を聞く相談相手になることである。さらには、エコツーリズムにつながる動きをこれら活動の中から探り出すことにある。たとえば、ボランティアによるリンゴ園経営(減農薬・有機肥料使用)、現地でのモンキーウオッチングの組織化などが手探りされている。
 ここでは現在進行中のサル追い上げについて、中間的な活動報告をする。

コンタクトオーサー
西埜将世 岩手大学農学部
(連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局
 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林
  Tel & Fax: 0287-47-1185
  E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp

09

石川県白山麓のニホンザルに対する住民意識

*1原田 正子・1丸山 直樹・2野崎 英吉
1 東京農工大学・ 2 石川県白山自然保護センター

 現在、ニホンザル(Macaca fuscata)による農林業被害(以下、サル被害と記す)は日本各地で発生しており、石川県でも白山麓を中心に多発している。1970年頃から手取川上流域において群れ数、個体数ともに増加し始め、被害は年々手取川下流域へと拡大しているが、決定的な解決策はまだない。被害の減少とともにその種の存続を図るための長期的視点にたった野生動物保護管理計画の策定には、対象動物の生態調査や被害調査だけでなく、地域住民の対象動物や被害に対する意識の把握が必要である。そこで本研究では、白山麓手取川流域の鶴来町、河内村、鳥越村、吉野谷村、尾口村、白峰村(以下、白山麓農村部と記す)の住民にアンケートを行ない、ニホンザルやニホンザルによる農作物被害に対する認識や意識を明らかにし、これらがどのような要因を受けて形成されているのかを検討した。
 アンケートは石川県白山自然保護センターと連名で行なった。アンケートの実施は2001年11月で、農家を対象に310部を配布し、回収数は244部(78.7%)であった。アンケート項目は、サルに対する意識と知識、サルによる農作物被害に対する認識と意識、現在行なっている農業と今後の農業経営について、サルの農作物被害対策に対する意識、属性とした。
 サル被害が頻発している農村部では、サルに対して厳格な意見を持つ人が多かった。農村部住民にとってニホンザルは日常的で、しかも農作物に被害を出す負の存在であるため、以前より増加したのなら駆除を行なえばよいとし、行政に実施を要求している人が多かった。しかし、被害を受けているにもかかわらず、農村部住民は駆除を積極的に望んでおらず、「被害を出すなら仕方がない」という意見が多かった。また、駆除の程度も「被害が出なくなる程度」を選択した人が最も多かった。
 住民のニホンザルやサル被害に対する意識は、被害の有無や居住地によって左右されていると考えられる。野生動物保護管理に関する合意形成に際して、地域住民の意識や意見について考察する場合、表面的な現象のみで住民の意見を判断せず、対象動物に対する意識や認識の形成過程の把握と理解が重要だと思われる。

コンタクトオーサー
原田 正子
現住所 東京都北区昭和町2-12-14
Tel:03-3800-4591
E-mail:harakko@kitanet.ne.jp

10

秦嶺山系におけるキンシコウの社会構造とその機能

*1和田 一雄・2張 鵬・3福田 史夫
1山梨環境科学研究所・2西北大学・3共立薬科大学

 周至キンシコウ自然保護区の西梁群(約91頭)のbandを調査期間のみ餌付けして個体識別して観察した。観察期間は2001年10-11月、2002年1月、3-4月、餌場は玉皇廟村の貢泥構に沿って設け、餌はダイコン、トウモロコシ、リンゴを用いた。bandは8 one male units からなり、8 males, 27 adult females, 13 young adult females, 4 three year-olds, 9 one year-olds, 15 babies であった。2002年1-2月は6 one male units に減少したが、3-4月には8 one male units に回復した。林内でのone male unit 間の交渉は極めて稀で、もっぱら餌場とその周辺で観察された。one male unit のメンバーが餌場に入る際かならずその大部分が来て一緒にであった。♂・♂間の交渉はなく、すべてunits 間で行われた。従って順位はunits 間で観察された。♂の名前で代表させると、黒頭、紅点、長毛、禿頭、井字頭、中指、断指、8字頭(第1位から8位まで)となる。林内ではone male unit 間で争いはなく、resting, grooming, huddling が観察され、aggressionは極めて稀であった。又、別のunitの♀が来て、restingその他に参加する事があった。2001年5月3日に91頭の群れを発見、その中に♂の黒頭、と♀の短尾を見たので今回観察しているbandが含まれていたし、8頭以上の♂をみていたので、これはbandとall-male group からなる west ridge herdであった. 新生児は3月23日から4月15日間に15頭出産したので、出産期である。従って、交尾期は10月から11月になるが、3-4月に頻繁にyoung adult に観察された。この交尾は社会的な繋がりを強化する機能を持つといえる。one male unit は社会的、生態的、繁殖上の機能を持つといえる。そして、キンシコウの社会はone male unit, band, all-male group を含む重層社会としてのherdからなる。

コンタクトオーサー
和田一雄 山梨県環境科学研究所
(連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局
 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林
  Tel & Fax: 0287-47-1185
  E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp

11

広域環境汚染から生物相を保全するための石川県海岸および浅海域生物相の種構成の分析

1寺西 亜希・1中田 友紀子・1氏家 理恵子・1,2笠原 里恵・*1横畑 泰志
1富山大学・2現, 州大学

 重油流出事故のような広範囲に環境汚染をもたらす突発的な事故が発生した場合、生物相や生態系への被害を最小限に押さえるためには、あらかじめそれぞれの地域での平常時の自然環境の現状を把握し、対処法を確立しておかなければならない。その際、いわゆる貴重種や希少種の分布域が重点的に保全される場合が多いが、そうした選別的な対策だけではなく、生物相全体を視野に入れた保全策も必要と考えられる。
 本研究では、この目的で石川県沿岸部を岩礁域、砂浜域などのまとまった環境ごとに 102 のブロックに分け、海岸および浅海域生物相の種構成の類似度によるクラスター分析を行なった。類似度には野村・シンプソン指数(NSC)を用い、これにより非類似度係数(1−NSC)を算出し、 ウォ−ド法により計算を行なった。約 1500 種 7270 件の生物の分布情報から得られた樹形図において、各ブロックはA〜Dの4つのクラスターに分けられた。それらは地理的にまとまりを持っており、A、Dは県南部の加賀地方、Bは北部の能登地方の主として西側の外浦地域、Cは東側の内浦地域の七尾湾と能登島の周辺に集中した。各クラスターに見られた生物の生息地を調べたところ、クラスターDからは砂浜の生物、その他のクラスターからは磯浜の生物が多く確認された。Aは他のクラスターに比べて貝類の生息情報が非常に少なく、そのうち砂浜の多い加賀地方にまとまって存在する5つのブロックの分布は、手取川扇状地の下部と一致していた。これは扇状地の礫質の多い堆積物の影響によって、貝類が少ないからかもしれない。
 それは加賀地方でBとなった加佐岬、能登地方外浦地域でA、Dとなった地域(大川浜などの局所的な砂浜)などである。これらの地域では広域環境汚染事故が起こった場合、その被害を大きく受け、生物の絶滅が起こりやすく、回復にも時間がかかると考えられる。そのため、そのような事故が起こった際、最も早急な、あるいは重点的な対処が必要である。

コンタクトオーサー
横畑泰志 富山大学教育学部環境生物学研究室
〒930-8555  富山市五福 3190
Tel:076-445-6376
E-mail:yokohata@edu.toyama-u.ac.jp

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ヤマザクラ果実の色および糖濃度の変化と発芽率の関係

葛西 真輔・小池 伸介・古林 賢恒
東京農工大学

 被食分散過程はいくつもの生活ステージによって構成される。種子散布システムの過程では、開花・結実のスケジュールにおいて可食部の栄養価、外果皮の色、果実の大きさなどが重要な要因となる。そこで、核果であるヤマザクラを対象に、開花からの日数を基準に果実の外果皮色、大きさ、糖濃度、発芽率のフェノロジーを明らかにした。
 6本のヤマザクラを対象に、外果皮の色については開花後、それぞれ200粒の果実の果柄に標識を行ない、2日間隔で変化を調べた。果肉の糖度、種子のサイズや発芽率の調査は、外果皮の色を緑色、赤緑色、赤色、黒色の4段階に区分し、開花後22日経過した時点から外果皮の色ごとに果肉の糖度、果実と種子の長径を測定した。測定後、発芽試験に供試した。発芽試験は5℃、90日間の低温湿層処理を行ない、10℃、60日間暗黒下で発芽させた。
 最初、外果皮の色は緑色であるが、果実が成長し、開花後40日目頃から見た目に変化が出はじめた。50日目には緑色70%、赤緑色21%、赤色9%となり、60日目には緑色13%、赤緑色11%、赤色36%、黒色39%と緑色が急減した。74日目には、緑色4%、緑赤色5%、赤色21%、黒色70%となった。
 果肉の糖度と外果皮の色の関係は、緑色<赤緑色<赤色<黒色の順に高くなった。果実の成熟にともなう糖度の平均は、開花から32日目に5.1±0.9度、40日目7.5±1.8度、50日目9.0±1.3度、60日目15.8±3.9度、74日目17.3±3.9度となった。種子の発芽率は40日目で0%、50日目で40%前後、60日目以降は70%前後の発芽率を示した。
 外果皮の色と発芽率との間には有意差がみられなかった。以上のことから、発芽率が急激に上昇する過程で、それに同調するように果実の外果皮の色、糖度も急激に変化することが明らかになった。
 外果皮の色彩の変化は、果実食の鳥類を誘引するうえで重要なことが知られている。また、ヤマザクラの樹下に自動撮影カメラをセットしたところ、成熟期にシカ、カモシカ、ヤマドリ、ハクビシン、テン、ツキノワグマが落果した果実や樹上の果実に集まってくることが観察できた。ツキノワグマが採食した場合には、健全な種子が糞中から高い割合で検出されるので、種子分散の可能性が高い。今後、ヤマザクラ果実へのツキノワグマの採食行動を種子繁殖の視点から調査する計画でいる。

コンタクトオーサー
葛西真輔 東京農工大学森林生物保全学研究室
〒183-8509 府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5746
E-mail:shinsuke@mb.neweb.ne.jp

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富士山北部におけるヒメシジミの個体群構造と環境構造との関係

渡辺 通人
河口湖フィールドセンター

 近年全国的に草原性蝶類の生息地の減少が顕著で、山梨県に生息するRDB種蝶類の約78%は草原性である。準絶滅危惧種に指定され草原性蝶類でもある本種は、神奈川県ではすでに絶滅してしまったといわれている(相模の蝶を語る会、2000)。富士山でも静岡県側の南部では、産地も限定され絶滅目前といわれているが(高橋・清、私信)、幸い山梨県側の富士山北部では生息地もかなりあり、まだ個体数の多い地点も見られる。そこで、本種の個体群構造とその生息環境の構造との関係を知ることによって、絶滅を未然に防ぐための方策を見つけたいと考え調査を行った。
 環境省委託生態系多様性地域調査(富士北麓)も兼ねて行ったのでその調査地域を対象とし、2001・2002年6月〜8月の成虫発生期を中心に調査を行った。調査全域で行った分布調査に並行して、個体数の変動と移動を精査するために、精進口一合目付近にある林に囲まれた草地(A地区)と、そこから約60m離れた林に囲まれた草地(B地区)、北富士演習場地内の広大な草原の一角(C地区)の3地区で重点的にマーキング調査を計41回行った。
 分布調査では、過去に記録のある3次メッシュの約半数は1980年以降記録がなく、1990年以降も記録のあるメッシュは約3分の1になっていることがわかった。また、今回の調査で3メッシュから初めて発見された。
 マーキング調査を行った3地区では、A地区が最も安定しており2001年92♂82♀・2002年63♂59♀が捕獲され2日目以降の再捕獲は23%〜67%であった。B・C地区では2002年にそれぞれ68♂82♀・80♂48♀が捕獲され、2日目以降の再捕獲は9〜26%と4〜5%であった。
 全域における分布の変遷に、各地区における個体数変動や生存率・移動頻度の違い、1996〜98年に行ったA地区及び1998年に行ったS地区(A地区から約1km離れている)での調査結果(Watanabe、1999)と環境構造を比較することによって、local-populationとmeta-populationの関係を含む本種の個体群構造と環境構造との関係について考察したい。

コンタクトオーサー
渡邊通人 NPO富士自然保護研究所
〒401-0301 山梨県南都留郡河口湖町船津字胎内6603
河口湖フィールドセンター 自然共生研究室
TEL & FAX:0555-20-3510
E-Mail:Mich2530@aol.com

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神奈川県丹沢山地における暖温帯林上部のムササビ(Petaurista leucogenys)の生態

谷 さやか・古林 賢恒
東京農工大学

ムササビは樹上生活に適応した動物で、森林生態系の保全を考える場合、重要な位置をしめる。しかし、夜行性ということもあり、研究は進んでいない。以下の項目について研究を進めた。
1.食性の季節性、2.営巣場所の利用状況、3.出巣・帰巣時刻、4.季節的行動圏、5.幼獣の成長と行動、6.飼育個体と捕獲個体の体重・外部形態の比較
 食性は、食痕と直接観察により調査し、植物のフェノロジーにともなって、樹種や部位が変化した。これまでも、その地域の植生を反映した多用な樹種を季節に応じて利用していることが報告されているが、すべての地域でスギの葉部の利用が確認されている。本研究でもスギの葉部に加えて、瘤の利用が確認できた。人工林率の高い樹種であることから、ムササビの種の存続にスギが果たしている役割を研究する必要がある。
 1つの営巣場所は複数の個体に時期を違えて利用された。また、1つの個体は複数の営巣場所をときどき変えながら利用した。この行動様式は、幾つかの営巣場所を行動圏に持ち、時間的すみ分けを必要とする行動を示唆しているのかもしれない。
 夜行性ということを確認するために出巣・帰巣時に直接観察をしたところ、出巣時刻と日の入り時刻、帰巣時刻と日の出時刻はともに高い相関関係をしめした。
 ラジオテレメトリー法により6個体の行動圏を調べたところ、幼獣の成長に伴い、母親の行動圏が広がっていく様子がみられた。また、調査時期は異なるが成獣オスの行動圏の面積は、成獣メスの行動圏の面積より大きかった。
 幼獣は、生後1ヶ月半くらいから母親の出巣時に、巣から顔をのぞかせる。生後2ヶ月半頃から母親とともに出巣するようになり、3ヶ月目にはじめて母親との別居が確認された。
 神奈川県立自然保護センター(現在の自然環境保全センター)に保護されたムササビ4個体の飼育記録や他の個体の保護記録を整理し、捕獲個体の年齢の推定に用いた。その結果、生後1ヶ月以内で200g以下、1,000g程度の個体では性成熟していない可能性があり、1200g以上の個体では性成熟していると考えられる。
捕獲個体については外部形質を計測し、幼獣と成獣で比較したところ、体重は2倍近い差が認められたが、外部形態の差は体重ほどではなかった。樹上生活者であるムササビにとって爪などの発達が早いほど、転落などの危険を避けるのに有効であると考えられる。

コンタクトオーサー
古林賢恒 東京農工大学
〒183-8509 府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5746
E-mail:kengof@cc.tuat.ac.jp

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島根県におけるイノシシの農作物被害と農家の意識

*1竹鼻 悦子 ・1神崎 伸夫・2小寺 祐二
1東京農工大学・2自然環境研究センター

 島根県では現在イノシシが隠岐島と島根半島部を除く46市町村に生息し、農作物被害が発生している。その対策として狩猟者による個体数コントロール、防除柵の設置、追い払い等が行われている。これまで被害の実態については調査されてきたが、それが農業経営に与える影響については明らかにされていない。そこで、イノシシによる被害の実態、被害対策とその費用・労力、農業に対する展望を明らかにするために、イノシシの被害のある46市町村の農業委員を対象にアンケートを行った。アンケートは2001年12月に配布、2002年1〜3月に回収した。回収数508通、回収率64.0%、回答者の平均年齢は61.1±6.6歳であった。回答者の53.5%が現在イノシシによる被害を受けており、過去に被害を受けていた人を含めると76.0%が被害を経験していた。被害作物は「水稲」が最も多く(51.5%)、被害発生年代は「1980年代」、「1990年代」が多かった。被害対策については、被害経験者の81.1%が「防除柵」による対策を実施しており、その効果を認めていた。しかし、被害対策にかかる「費用」と「労力」に負担を感じている農家が多いことから(費用:85.3%、労力:90.5%)、農家の高齢化や農産物の収益性の悪化により今後対策をとり続けることが困難になる可能性が考えられる。今後の農業経営の規模については「現状維持」が最も多かったが(73.5%)、生産よりも農地の資産保持のために農業を継続する農家が多かった。イノシシの被害の有無と今後の農業経営規模についての農家の意識には差が見られなかった。また、農業維持に必要な条件についても「担い手の育成」(61.7%)や「農産物の価格上昇」(48.5%)が「鳥獣被害対策」(31.0%)よりも多く選択されていた。以上のことから、島根県の農業は労働力の流出や厳しい経営状況により衰退が進行しており、イノシシによる被害はそれに追い打ちをかけているものの農業衰退の一義的要因ではないと考えられる。

コンタクトオーサー
竹鼻悦子 東京農工大学農学部野生動物保護学研究室
〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5737
E-mail:takehana@cc.tuat.ac.jp

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島根県石見地方におけるニホンイノシシのミミズ利用量の季節的変化

*1皆川 晶子・1神崎 伸夫・2石川 尚人・3小寺 祐二
1東京農工大学・2筑波大学・3自然環境研究センタ−

 島根県石見地方では1994年以来、ニホンイノシシの胃内容物を用いた食物項目分析が行われている(自然環境研究センター, 1995-2001)。その結果、本種は春に単子葉草本、タケノコ、夏に双子葉草本、秋冬に堅果類、根・塊茎類を主に採食していることが明らかとなっている。しかし、それらの分析はポイントフレーム法で行われており、消化され易い無脊椎動物が過小評価されている可能性がある。他地域個体群においてほぼ年間を通して利用されているミミズ(Founier-c, 1995)はほとんど出現していない。そこで本研究では、胃内容物中で消化されないミミズの剛毛を数えることにより、本種のミミズ利用量の季節的変化を調べた。サンプルとして、1998年4月から1999年3月にかけて島根県石見地方で捕獲されたイノシシ265個体の胃内容物を使用した。同一サンプルをポイントフレーム法で分析した場合、ミミズの出現頻度は10%以下であったのに対し(自然環境研究センタ−、1998)、本研究では33〜66.7%となった。イノシシの胃内容物中の平均剛毛密度と出現頻度は同様の季節的変化を示し、7月が最も高く(36.7±9.9本/ml、66.5%)ついで9月(22.2±8.1本/ml、55.6%)となった。また、7−10月の平均剛毛密度は11〜3月までに比べ有意に高かった(P<0.05)。次にミミズの利用が多かった7−9月にいて、ミミズ利用個体とそれ以外の個体における胃内容物の乾物中の粗蛋白質含有率と粗脂肪含有率を比較した。その結果、前者と後者の平均粗蛋白質含有率はそれぞれ15.5%と15.4%、平均粗脂肪含有率はそれぞれ4.5%と3.9%であり、有意差はみられなかった(U-test,P>0.05)。以上のことから、イノシシは特に夏期にミミズを多く利用すること、ミミズはイノシシの栄養状態に影響する程重要な栄養源ではないことが考えられる。

コンタクトオーサー
皆川晶子 東京農工大学農学部野生動物保護学研究室
〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5737
E-mail:minaeri@hotmail.com

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ニホンテンの密度指標3手法試案 −INTGEP, ビームライト, 糞密度−

1須田 知樹・2倉島 治・3小金澤 正昭・3金子 健太郎
1東京農工大学・2東京大学・3宇都宮大学

 テン属の研究は欧米を中心として生息地選択、食性、行動圏面積などが主になされているが、個体群生態学的研究は少ない。特に、そのベースとなるべきセンサス方法は全く開発されていない。視認しにくいこと、テリトリアルであること、フィールドサインを発見しづらいことなどがその原因と考えられる。発表者らは、昨年、一昨年の本学会発表で、ニホンジカによる生息地攪乱が、ニホンテンの食性へも影響することを発表した。この影響が、ニホンテンの個体群密度へも及ぶのかを解明するためには、ニホンテンの密度指標手法を開発する必要がある。そこで本研究では、INTGEP法、ビームライトセンサス、糞密度法の3手法を比較した。調査地は、栃木県奥日光市道1002号線(踏査距離約10km)沿いでである。INTGEP法に用いたデータは、2002年2月に行った市道から幅500mの踏査による足跡調査と2001年2月に行った24時間連続ラジオテレメトリーである。ビームライトセンサスは2002年5月から8月にかけて、市道から行われた。糞は、市道の踏査により2000年4月から6月、9月から12月、2001年4月から6月に回収された。得られたデータを市道前半約5km(小田代側)と市道後半(千手側)に分けて各手法を比較したところ、INTGEP法とビームライトセンサスは小田代側で密度が低く千手側で高いという類似した結果が得られたが、糞密度は小田代側で高く千手側で低くなった。糞密度法がもっとも簡便に行える方法であるが、今回の結果から、密度指標として用いることが困難である可能性が示された。一方、INTGEP法、ビームライト法は有効である可能性があるが、INTGEP法は足跡の残る積雪期にしか実施できないため、周年を通してニホンテンの行動圏が一定である必要がある。また、ニホンテンは薄明薄暮に行動量が増すため、ビームライトセンサスを行う際には、観察時間帯を考慮する必要がある。ニホンテンの密度指標の確立には、今後、自動撮影装置やDNAをマーカーとした記号放逐法などいくつかの手法を試験、開発する必要がある。

コンタクトオーサー
須田知樹 東京農工大学農学部
〒183-8509 府中市幸町3-5-8 東京農工大学農学部野生動物保護学研究室
Tel:042-367-5737
E-mail:sudak@topaz.ocn.ne.jp

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仔連れクマによるクマ剥ぎ例

1八神 徳彦・*2西 真澄美・3野崎 英吉
1石川県林業試験場・2東京農工大学・3石川県白山自然保護センター

 石川県では、県南部を中心にクマ剥ぎが拡大・激化している。この原因は明らかになっていないが、クマ剥ぎ激害地では親子のクマが捕獲されたり、目撃されたり、また親子の痕跡が見られることがたびたびある。本報告では、加害クマが仔連れのクマであると確認できた一例を報告する。
 調査地は石川県白山麓に位置する尾口村鴇ヶ谷の私有林である。ここで2002年5月30日に2頭の当歳仔を連れたメスのクマが冬ごもり穴内で有害駆除された。巣穴の周辺にクマ剥ぎ被害木が見られ、被害木に付けられていた歯形と親グマからとった歯形が一致することから、それらのクマ剥ぎが駆除されたメス成獣のものであることを確認した。被害木と無被害木の測量を行ったところ、被害木は冬ごもり穴内から約30m以内に集中していた。胸高直径階別に幹剥皮率を調べたところ、巣穴周辺の被害地では立ち木の胸高直径が20cm以上になると被害率、被害本数ともに増加していたが、胸高直径20cm以下の細い立ち木にも約4割に剥皮が見られた。微被害地では胸高直径20cm以上の立ち木が相当数存在していたが、被害は極端に少なくなっていた。2002年9月に調査地の植生調査を行ったところ、被害林分は植被率が80%でササやコナラなどの下層植生が密生しており、見通しが悪くなっていた。スギ林に接していた湿地ではクマイチゴやカサスゲが密生していた。被害木がごく少数しか見られなかった微被害地では、林冠がうっ閉しており、リョウブなどが散在するほかは30cm程度の植生が見られるにすぎず、林床植生は貧弱であった。巣穴の周辺で駆除直後に採集した新鮮な糞45個の内容物を分析したところ、75.6%の糞にスギの木部が確認され、広葉植物の葉と単子葉植物についで主要な食物資源となっていた。
 以上から、当歳仔2頭を連れた母グマは、子グマの保護と育児のために活動範囲が制限されるため、越冬穴を出て約1ヶ月をスギ林の中で生活し、身近にある広葉の若葉を主として湿地に多いカサスゲやササの芽などの単子葉植物とともに、限られた餌資源の中から、相対的に利用しやすい餌としてスギの樹幹を利用したことが推測された。

コンタクトオーサー
西 真澄美 東京農工大学大学院農学研究科
〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5737
E-mail:interruptedgirl22@hotmail.com

19

ヤマザクラ果実に対するニホンツキノワグマの消化過程での種子の体内滞留時間

*1小池 伸介・1葛西 真輔・1古林 賢恒・2小松 武志
1東京農工大・2阿仁町ツキノワグマ研究所

 ツキノワグマが森林で果たす役割を明らかにする一環として行なったものである。6、7月のツキノワグマの糞中からヤマザクラの種子が大量に検出され、発芽率が高いこと(小池ら2002)から、種子散布にかかわる役割を明らかにするために種子の健全率と体内に滞留する時間を調べた。ツキノワグマは直接観察が困難なことから、種子散布範囲を推定する方法として採食した果実の体内滞留時間と対象果実の採食時期におけるツキノワグマの行動から推定する方法、糞から出現した種子の幼植物のDNAと符合する母樹の位置との関係から散布範囲を推定する方法が考えられる。ここでは体内滞留時間の情報を得ることとした。実験を行なうにあたり阿仁町熊牧場の職員の方々には便宜をはかっていただいた。
 2002年5月と7月に、秋田県阿仁町ツキノワグマ研究所実験棟において5頭のツキノワグマを用いて実験を行った。各個体について3回ずつ計15回の実験を行った。5月の実験では、1回の実験でヤマザクラ果実を100粒、ヤマザクラ種子と同型、同重量のプラスチック製のマーカーを100粒および食紅を採食させた。また、7月の実験ではマーカーのみを採食させた。直接観察によって、排出された糞はすぐに回収し、糞中の種子、マーカーの個数と健全率を求めた。なお、夜間は、ビデオ撮影により排出時間を特定し、翌朝に糞を回収した。
 体内を通過した種子の健全率は93.3%であり、野生個体の糞から出現したヤマザクラ種子の健全率との間には有意差が認められなかった。5月の実験では、ヤマザクラ種子の体内滞留時間は最短で6時間15分、最長で44時間、マーカーは最短で4時間5分、最長で44時間となり、平均は、種子、マーカー共に18.9±0.9時間となった。7月の実験では、マーカーは最短で3時間、最長で33時間45分、平均は15.1±0.3時間となった。両実験からヤマザクラ種子の体内滞留時間の平均は16.3±0.3時間と推定できた。
 ヤマザクラ果実の成熟期(6月〜7月)には果実の糖濃度が高いことから、ツキノワグマの重要な食性になっていることが示唆される。今後、果実の成熟期におけるツキノワグマの行動を分析し、体内滞留時間の意味を考察しなければならない。GPSによる7月前半の行動から判断すると、種子散布範囲が他の散布者に比べて相当に広い。

コンタクトオーサー
小池伸介 東京農工大学
〒183-8509 府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5746
E-mail:s-koike@cc.tuat.ac.jp

20

富士山周辺地域におけるツキノワグマの分布とロードキル問題

*1奥村 忠誠・1瀧井 暁子・2小池 伸介・1羽澄 俊裕
1(株)野生動物保護管理事務所・2東京農工大学

 分布域の分断孤立による島嶼化は、野生生物個体群を物理的に小規模集団にしてしまうことから、保全生物学的な観点からは、野生生物を絶滅に至らしめる深刻な問題としてとらえられ、その改善が求められている。この点は新生物多様性国家戦略の自然再生事業の一つの目標として掲げられている。
 南関東地域一帯は、古くから、茅場の維持、耕作地の開墾、林業、リゾート開発、交通網の整備といった様々な人為的土地利用が盛んにすすめられてきた地域である。そのため、野生生物の生息する地域が人為的な環境に囲まれて、小規模の山塊ごとに島状に分断されてきた。
 とくにこの地域に生息する大型哺乳類のツキノワグマは、本来の生息密度が低いほか、行動圏が大きく、個体の生活には広い森林環境を必要とすることから、一定の範囲に生息できる個体数が少ない。したがって、分布域の連続性が失われた場合、数10頭から100頭といった小さな集団規模で推移する閉塞的な状態に追い込まれしまい、絶滅の可能性が急速に高まっていく。
 演者らは、1999年から2001年にかけて、環境省の委託事業を通して、山梨県の御坂山地から富士山周辺に至る地域で、自然再生に関する総合的な調査を実施してきた。その際、ツキノワグマに発信機を装着して分布域間の移動状況について調べたほか、この地域の大型哺乳類の物理的な障害になっていることが予想される中央高速道路、東富士五湖道路について、ロードキルの発生状況について情報収集をおこなった。
 その結果、御坂山地の西部地域を利用する個体が、本栖湖以南の毛無山地方面まで利用したことや、富士山の大室山付近で捕獲した個体が、青木ヶ原をぬけて精進湖の西側にあたる下部町方面を利用したことを確認した。また、大月の笹子トンネル付近では、延長約4。5kmのトンネルの上部を、三ッ峠側から秩父山地側へと移動する個体が確認された一方で、トンネルの両側で、中央高速道路上にツキノワグマが入り込んで交通事故を起こす事例が年に数例発生していることが確認された。さらに、東富士五湖道路でも山中湖近辺でツキノワグマのロードキル事例が確認された。
 こうした事故例は、島嶼化の進む分布域のツキノワグマ個体群で、健全に移動分散の力が働いていること、さらには、人為的開発地域であっても強引に渡る個体がいることをよく現している。移動分散は個体の交流、さらには遺伝子の交流といった、個体群の存続にとって重要な働きをもたらすことから、生物多様性保全の観点からは、物理的障害となる構造物の改善は急務である。

コンタクトオーサー
奥村忠誠 (株)野生動物保護管理事務所
川崎市多摩区布田5−8
Tel:044-945-3012
E-mail:okumura@wmo.co.jp

21

日光・利根シカ地域個体群の遺伝学的内部構造‐尾瀬のシカはどこから来たか?

*小金澤 正昭・福井 えみ子
宇都宮大学

 近年、ニホンジカが栃木、群馬、福島3県にまたがって分布する日光・利根地域個体群の北端に位置する尾瀬に出現し、社会的に大きな問題となっている。尾瀬のシカの保護管理にあたっては、シカがどこから移動してくるのか、その越冬地の解明は極めて重要である。しかし、生息数が少なく、捕獲は極めて困難で、テレメトリ法による解析は進んでいない。そこで、演者らは、ミトコンドリアDNAのD-loop領域の遺伝学的分析を行い、尾瀬のシカの越冬地解明を試み、あわせて当地域個体群の遺伝学的内部構造の解析を行った。
 分析は常法に従って行った。試料は、尾瀬地域と当地域個体群内部の主要な越冬地域から採集した計110個体の採血資料を用いた。塩基配列の分析から、当地域個体群のmtDNAには18のハプロタイプが確認された。また、これとは別に10標本の毛根部の分析から3つのハプロタイプが確認され(群馬分析センター)、統合するとハプロタイプは21種類となった。また、尾瀬地域と同じのタイプが検出された越冬地は、栃木県栗山村馬坂(Type8)、日光市奥日光(Type1)、群馬県片品村追貝(Type NOB-1)の3ヶ所であった。このことから、尾瀬地域に分布を広げた個体は、少なくともこの3ヶ所を越冬地としていると判断された。
 一方、地域個体群全体として見ると、各タイプの出現頻度は、Type1が70%(74個体)で確認された。このタイプは地域的な偏りは少なく、このハプロタイプが最も地理的に優占していた。この他のタイプは、Type7の7%(7個体)、Type 4の5%(5個体)が続き、その出現頻度は低く、しかも地域的な偏りが見られた。
 次に、塩基配列の相同性から推定される系統樹(非加重連結法)をみると、当地域個体群は、大きく3つの系統に分けられた。この3つのグループは、繰り返し配列が5回のもの(Type5)、繰り返し配列6回と、6回を含む7回以上のグループに分けられた。
 以上の分析から、日光利根地域個体群は、遺伝学的には、1。系統樹の分析から、相対的に古いタイプと、出現頻度が高く優勢なタイプ、このタイプより相対的に新しいタイプの3つのグループからなっている。2。その出現頻度をみると、1つのタイプ(Type1)が最も優占し、他のハプロタイプの出現頻度は10%以下と優占度は低い値であった。3。さらに、Type1は、広い地域で確認され地理的にも優勢であった。

コンタクトオーサー
小金澤正昭 宇都宮大学農学部附属演習林
〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556
Tel:0287-47-1185
E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp

22

木本植物の小枝に対するニホンジカの採食形態

大久保 朝高・古林 賢恒
東京農工大

 シカの採食形態について観察していると、柔組織をむしり取るようにして採食しているのが普通である。上下に切歯がないためこのような採食形態になる。森林地帯における環境収容力を明らかする際の基礎デ−タとして、採食植物種、採食部位についてのデ−タは不可欠である。そこで、木本植物の小枝を対象に成長期と成長休止期で採食部位の年齢・衝撃仕事量が異なるかどうか、成長休止期に栄養価の高い植物を給餌した場合に採食部位の年齢・衝撃仕事量が異なるかどうかを調査した。調査は、2001年8月13日〜10月25日(成長期)、2001年12月20日〜2002年1月26日(成長休止期)である。調査地は神奈川県丹沢山地の一隅で、生存限界密度の条件下でシカがよく出現する場所において行った。木本植物の小枝(長さ2m程度)を持ち込み、自然に近い状態にセットし、シカに採食させ、採食形態(採食部位・採食部位の年齢・採食部位のサイズ)について測定した。また、シャルビ−型試験機を用い、採食部位の剪断面積と衝撃仕事量との関係を求めた。成長休止期の採食試験に当たっては、アオキを代謝体重あたり91.4g/日与える場合と与えない場合を設定し、成長期と同じ方法で採食試験を行った。
 成長期には13種を用いたが、9種は葉・当年枝を採食、ミズキ・クマノミズキ・リョウブ・ハナイカダの4種は1年生枝についても一部採食が認められた。成長休止期にはアオキを給餌した場合と給餌しない場合で採食部位に顕著な差が認められた。アオキを給餌した場合には、成長期と同様な結果となったが、アオキを給餌しなかった場合には、14種のうち当年生枝だけを採食した場合が1種、1年生枝まで6種、2年生枝まで3種、3年生枝まで3種、5年生枝まで1種となり、木化の進んだ部位まで採食することがわかった。この場合、採食形態はむしり取る方式にくわえて、小枝を横からくわえて3番目あたりの前臼歯を用いてゴリゴリと削り取り、小枝の径を細くした後、採食していることがわかった。成長期と成長休止期に採食した部位の剪断力を比較すると、成長休止期のほうが衝撃仕事量の高かい部位を採食していることがわかった。

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古林賢恒 東京農工大学農学部
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森林所有者の獣害防止資材に対する意識調査 −特にコストに関して−

丸山 哲也
栃木県県民の森管理事務所

 植林木の獣害防止資材としては、防鹿柵のほかに忌避剤や、苗木を1本ずつ覆う資材(以下、ツリーシェルターと記述)、成木の幹巻き資材(以下、樹幹帯と記述)があり、一部は製品化されているが、実用試験を実施中のものも多数存在する。一方、木材価格の低迷により、林業経営を取り巻く環境は年々厳しくなってきており、獣害防止にかけられるコストが低くなってきているのは確実である。このため、いくら獣害防止に効果のある資材でも、高価なものでは受け入れてもらうことはできない。
 そこで、今後の新たな資材開発のための基礎資料とすることを目的として、森林所有者がどの程度の価格のものであれば利用しても良いと考えているのかを、アンケート形式により調査した。
 質問したいずれの資材についても、払いたくないと回答した人は4割前後であったのに対し、3割前後の人が払ってもよいと回答していた。支払い可能な金額としては、忌避剤は現在市販されているものとほぼ同じであった。しかし、ツリーシェルターは現在の製品よりかなり低い金額であったため、今後はより安価なものを開発するとともに、行政の補助についても考慮していくべきと考えられた。樹幹帯は他の資材に比べ支払い可能額が最も高くなっており、成木の被害に対する高い危機感のあらわれと考えられた。樹幹帯は様々なものが開発、試験され、一部販売されているものもあるが、全国的に広く普及した資材は存在しないため、実用的な方法の開発が至急望まれている。

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丸山哲也 栃木県県民の森管理事務所
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山西省黄土高原の自然回復:退耕還林還草事業視察報告

丸山 直樹
東京農工大学

 退耕還林還草事業は、農耕牧畜による長年の自然荒廃の進行を防止し、人工植栽による植生回復を目的にした自然復元事業である。中国での緑化事業の歴史は古いが、今回の事業の直接の動機は、1998年の長江、松花江の大洪水とともに近年ますます激甚となっている黄砂である。事業地域は、松花江上流域の吉林省白頭山一帯、長江と黄河の上・中流域のモンゴル平原、黄土高原の6省3自治区にまたがる広大な地域で行われている。吉林省での事業については譚(2001)の報告に詳しいが、これ以外の地域についての状況は知られていない。筆者は、2002年7月、山西省農業科学院の招きで事業地視察の機会を得た。わずか4日間の日程ゆえに情報は限られているが、中国の自然保護事情を知る得難い経験であったので報告することにした。この事業の統括行政は、国家林業局−省林業庁−省退耕還林局/林業局−県・市退耕還林還草指導組−県・市退耕還林還草計画委員会/林業局−村農民、となっている。実際の作業は農民による義務的請負によって行われ、県の合否判定委員会によって査定された後、農民には報酬が支払われる。隰県での施業方法は「水平溝造成方式」ある。傾斜角15゜以上の黄土堆積斜面が対象になる。耕作が許されるのはこの傾斜角以下の緩い斜面である。水平溝の役割は、降水を溜める保水・水利である。水平溝は夏に作られ、秋に内部に植栽される。谷底では、早成長・高木性のヤナギ、ポプラ、斜面では高木と灌木が植栽される。自然種が優先的に植栽される。果樹は20%以下に抑制されている。土壌の堆積が僅かな岩礫性の急傾斜地では岩塊を燕巣状に積み上げ、内部に土壌を入れて植栽桝を作り、桝毎に1本の苗木を植栽する。退耕還林還草事業の地域での実施手順は、(1)指導組による事業候補地選定(2)指導組による計画策定(3)農民による作業(4)合否判定委員会による完工検査(5)検査合格の場合、農民は金・食糧取得。不合格の場合はやり直し。

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丸山直樹 東京農工大学農学部地域生態システム学科野生動物保護学研究室
〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8
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E-mail:maru@cc.tuat.ac.jp

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島根県における新規参入狩猟者と県外からの狩猟者の意識

1*上田 剛平・1神崎 伸夫・2小寺 祐二
1東京農工大学・2自然環境研究センター

 日本の狩猟者は、1970年の約53万人をピークに減少を続けており高齢化も進行している。これは新規に参入する狩猟者が少ないためである。現在、日本各地で大型哺乳類の分布拡大が見られ、農林業被害も急増している。それに対し特定鳥獣保護管理計画を策定し、個体数コントロールを強化する動きが地方自治体に見られる。しかし狩猟者の減少により、駆除隊を編成できないケースも生じている。島根県の狩猟者数も1976年の約7200人をピークに減少し続けてきたが、1990年代以降は狩猟免許取得者の増加により約3300人で安定している。そこで新規参入する狩猟者の意識と背景を明らかにするため、2001年7月より狩猟免許試験受験者全員に対してアンケートを行った。配布数は371通、回収数は330通、回収率は約90%であった。また島根県は今年度イノシシの特定鳥獣保護管理計画を策定することで猟期を延長し、捕獲圧を高めようとしている。通常の猟期外には県外からの狩猟者の増加が予想される。それにより捕獲圧の高まりが期待できるかについて検討するために、2001年10月より県外の狩猟者を対象に狩猟実態と意識についてのアンケートを行った。アンケートは狩猟者登録証の発送時に同封し、県に返送してもらった。発送数は320通、回収数は90通、回収率は約30%であった。
 狩猟免許試験受験者の職業は「農業」が最も多く(44.1%)、受験した免許の種類は「甲種」が最も多かった(82.1%)。狩猟対象にしたい動物では「イノシシ」が最も多かった(95.7%)。免許取得のきっかけとしては「鳥獣害を減らすため」が最も多く(80.4%)、「行政に勧められて」がそれに続いた(12.2%)。狩猟を行う上での不安点としては「経費が高い」が最も多かった(39.0%)。つまり島根県において新規参入する狩猟者は、イノシシによる被害対策を目的とした狩猟者であると言える。
 県外からの狩猟者の職業は「自営業」が最も多く(36.7%)、居住地は「都市」が最も多かった(50.0%)。免許は乙種が最も多かった(77.0%)。主な狩猟対象動物はイノシシが54.4%、鳥類が45.6%であった。島根県で狩猟を始めたきっかけは、「島根県に狩猟仲間がいるから」が最も多かった(44.8%)。狩猟の問題点としては、「罠が多く猟犬がかかりやすい」が最も多かった(38.2%)。県外から来るイノシシ猟師は都市住民で銃猟が多く、県内の狩猟者とグループで行う傾向が見られた。しかし本県では罠猟が盛んなため、県内の罠猟師とトラブルが発生している可能性が考えられる。

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上田剛平 東京農工大学農学研究科野生動物保護学研究室
〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8
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生命共同体思想としての『新今西進化論』

水幡 正蔵
在野の研究者

 今西理論は“生物の世界”を種個体、種社会、生物全体社会の三重構造でとらえる。これはエコロジ−世界観として画期的なものである。なぜなら人間社会をヒト種社会として生物全体社会の一員に相対化し、「地球は人間のもの」という世界観を超えているからである。そして今西は自らのこの世界観がよって立つ進化論を求めて、いわゆる“今西進化論”を提唱した。共時的な世界観を思想に高めるためには、今西の世界観に対応した通時的な進化論が必要であったわけである。
 ところが今西は進化における遺伝的メカニズムを無視して、「(種社会単位で)変わるべくして変わる」と主張してしまった。それは科学的説明とは言えず、生物学者の間では今西進化論は葬り去られる結果を招いた。当然それと連動する形で、今西のエコロジ−世界観も今や口にする人さえいないのが現状である。
 はたして主体性を持つ生き物は人間だけであり、したがって「地球は人間のもの」という世界観のままで、人間は他の生物種とこの地球上で共生できるであろうか。人間による生命共同体(生物全体社会)の破壊を止めるためには、人間を生命共同体の一員としてとらえ直す思想(進化論)がやはり必要ではないか。
 『新今西進化論』(発売 星雲社)とは今西進化論の挫折を徹底検証するところから、集団遺伝学にも適合する種社会単位の進化論を再構築したものである。新今西進化論では、種社会の起源をカンブリア大爆発に設定し、「主体性」も種社会の構成員たちが共有する脳プログラム=“種社会ソフトウェア”として明確な定義を行った。
そのことによって動物種社会には“交配権ル−ル”(MPR)が存在することを示し、MPRの強化による進化メカニズム論を打ち出すに至った。
 MPRは今日の動物種社会にも観察することができ、新今西進化論はいわば観察できる進化論である。この新今西進化論により、今西のエコロジ−世界観を復活させ、生命共同体思想と呼べるものに高めていきたい。それは「生命共同体の保全が各国家の経済発展に優先する」という“ヒト種社会”的合意につながる思想である。

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水幡正蔵 在野の研究者
(連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局
 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林
  Tel & Fax: 0287-47-1185
  E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp

(C) 2003.10 野生生物保護学会
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