環境大臣宛の要望書
環境大臣 石原伸晃 殿
会長 湯本 貴和
(京都大学 教授)
〒100-0003 東京都千代田区一ツ橋 1-1-1
パレスサイドビル9F ㈱毎日学術フォーラム内
Email:awhs@mynavi.jp
拝啓
日頃より「野生生物と社会」学会の活動に対して、ご理解とご協力を賜り厚く御礼を申し上げます。
さて、昨年末に「鳥獣の保護及び狩猟の適正化につき講ずべき措置について(答申素案)」についてパブリックコメントを提出したところですが、当学会として今回の鳥獣保護法改正に対して、改めて添付のとおり要望書を取りまとめましたので、ご高配いただきますようよろしくお願いいたします。
なお、当学会では、これまでも研究者だけでなく、行政担当者や地域住民を交えて、鳥獣管理を含めた生態系保全に関する様々な取り組みを行ってきており、この問題を解決するために協力を惜しまない所存であります。
敬具
連絡先
会長
湯本 貴和 〒484-8506 愛知県犬山市官林41−2 京都大学 霊長類研究所
(Eメール:yumoto.takakazu.6w@kyoto-u.ac.jp)
副会長(要望書取りまとめ担当)
横山真弓 〒669-3842 兵庫県丹波市青垣町沢野940
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所
(℡:0795-80-5514、Fax:0795-80-5506、Eメール:yokoyama@wmi-hyogo.jp)
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化につき関する法律」改正に対する要望書
1.鳥獣管理における科学性を担保するための社会基盤の整備
我が国では、これまでに多くの野生鳥獣が絶滅の危機に瀕した歴史的背景から、昭和30年代の鳥獣保護法改正で、鳥獣の保護増殖を目的とした制度が整えられた。その一方、鳥獣による農林業被害に対しては、対処療法がおこなわれるのみで、社会システムの中に、鳥獣をモニタリングする仕組みを欠いてきた。そのため、野生鳥獣のモニタリングと分析に基づく、施策の効果検証を行う科学的な管理の歴史が浅く、またそれを担保する社会的基盤は依然として脆弱な状況にある。
1999年以降、科学的管理を実施するために地方自治体や研究機関により様々な試行錯誤が積み重ねられ、着実に進展した事例があるものの、全体としては科学的根拠に欠けるものが多い。その大きな要因として、財政的な措置と適切な人員配置が不十分で、科学性を担保するために必要となる調査研究が不十分だった点が挙げられる。わずかな予算による外部委託で済ませている事例も多くまた、何年も調査が行われていない事例もある。適切な財政的措置が行われない背景として、法的な根拠が欠如しているという理由が大きい。
参考資料:
「哺乳類科学47巻1号(2007年):127-159,2006年度大会シンポジウム記録2特定鳥獣保護管理計画の現状と課題」、
「哺乳類科学47巻1号(2007年):25-87,特集シカ特定鳥獣保護管理計画の現状と課題」、
「哺乳類科学48巻1号(2008年):39-143,特集クマ類の特定鳥獣保護管理計画の実施状況と課題」
2.行政間の役割の明確化と連携の体制に関する法的位置づけの明確化
現行の鳥獣保護法の主体は国(基本指針を定める等)と都道府県(鳥獣保護事業計画等の策定、実行)である一方、鳥獣被害防止特措法は国(基本指針を定める等)と市町村(被害防止計画の策定、実行)である。前者では市町村が、後者では都道府県の役割を十分に果たすための仕組みが抜け落ちている。鳥獣管理は実質的に両法律により対処されるため、それぞれの実施主体が円滑な連携体制を構築できるよう両法律にそれぞれの役割や責務を明確に位置づけるべきである。また近隣自治体の境界地域における施策を円滑にすることが必要となってきているものの、現行ではそれぞれの自治体における鳥獣管理の方針や体制、予算規模が異なることなどにより、主体的に連携を図ることが困難な現状を克服する必要がある。鳥獣管理の主体は、国・都道府県・市町村であり、それぞれの役割と責務を果たすとともに適切な関係を構築する責務について、鳥獣保護法に明記することを求める。また、広域的な管理を行うために近隣自治体が主体的に連携を構築するための責務についても明記することを求める。
3.人材育成と人材配置の拠点整備
適切な鳥獣管理には、①科学的に状況を把握・分析するための科学者、②現場で施策を実行するための技術と知識、さらには現場での多様な主体を取りまとめるコーディネート力と安全管理能力を兼ね備えた現場対応技術者、さらに③鳥獣行政を遂行するために必要となる知識を兼ね備えた行政専門官の3つの異なるタイプの専門家が必要である。国民の共有財産を適切に守るための科学的鳥獣管理を掌る人材育成について、教育拠点の構築及び人材教育と適切な人材配置の推進を法律に明記することを求める。
4.クマ類、ニホンザル、海棲哺乳類、増加中の中型哺乳類に関する調査研究のさらなる推進
今回の答申では、シカ・イノシシに焦点があてられており、現状の深刻な被害と体制不足を鑑みると適切な対応であると考えられる。しかし、今回対象となっていない上記の獣類についても、急速な生息状況の変化が認められており、また被害形態もより複雑なものであるため、適切な保護管理の実行は急務である。今回の法改正以降、速やかに対応することを付記することを要望する。以上